岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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の再開にこぎ着けても、売り上げの減少から事業を継続することができず、ついには倒産などに至った企業を生むことにつながった原因といえる。「補助金などの申請についても、震災という非常時では仕方がなかった面はありますが、申請することが優先されたきらいがありますね。それどころか、補助金で必要以上の設備投資をしたケースも見受けられました。補助金を受給するまでの時間、その間の取引先や消費者の動向、市場や雇用のことなどを踏まえると、被災以前の業績に戻せるかどうかはかなり疑問だったわけですから、その辺りを冷静に判断する必要があったと思います」と紺野氏。被災企業にとって、補助金は大きな支援になっていただけに、返済計画を含めた明確な経営ビジョンを持った上で、活用することが求められると分析している。その一方で、被災直後に小売業などでは廃業が目立った。坂下氏は「小売業は、他の業種と違って、消費者の声を直接聞くことができ、その動向には詳しいといえます。ですから、将来のリスクを読み取って、言ってみればキズが広がらない間に、早めに次の事業に転換することを選択した可能性があります」と解説する。また、企業の中には、取引先に及ぼす休業の影響を考えて事業の再開を優先させ、あえて補助金を申請せずに、自己資金によって、できる範囲での生産に取り組んだところもある。坂下氏は「被災前の事業や業績に戻したいという思いはよく理解できますが、それらにこだわらないという判断や、あるいは新たな業態や分野、市場を目指すことも、状況によっては必要ではないでしょうか」とアドバイスしている。休業期間の長さが、事業再開後の業績に関わってくるが、企業や商品を取り巻く環境などによって、その影響は違ってくる。自社が置かれた状況を冷静に判断し、時間と資金のバランスを考えた、いざという時の事業計画を準備しておくことが求められるだろう。補助金の活用にも必要な冷静で明確な経営判断事業再開を成功に導く時間と資金のバランススポンサー決まらず再生断念太洋産業株式会社 本店:岩手県大船渡市 本社:東京都中央区Case.21935年創業。「タイサン」ブランドで国産水産物を中心に取り扱い、長年の業歴を有する水産加工販売業者。大船渡市などにある自社工場で加工を手掛け、2003年には年売上高約145億円を計上していた。しかし東日本大震災により大船渡工場が被災。加えて、主力のサンマとアキサケの漁獲量に業績が大きく左右されるなど厳しい営業環境となり、2017年の年売上高は約77億円にとどまっていた。その後も業況は改善せず、民事再生法の適用を申請するもスポンサーが決まらず、再生計画案の策定が困難となったため、2018年11月に再生手続き廃止決定を受けた。失敗事例に学ぶ災害などで休業することになった場合、どの程度の期間なら耐えられるか理解しているか?11の期間は金融機関など第三者が確認したものか?2休業から事業再開までの資金計画があるか?3事業再開までに受けられる外部からの支援には、どのようなものがあるか把握しているか?4販路開拓や取引先との関係強化の具体策は用意されているか?5「時間と資金」チェックリスト※帝国データバンク 倒産・動向記事より抜粋147

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