岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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[SDGs]2030年に向けて福島県は広葉樹資源が豊富で、全国でも有数のシイタケ原木生産地である。その地域特性を生かした産業振興策として、大規模な菌床シイタケ栽培生産者の育成が県内で計画され、2008年7月に農事組合法人いわき菌床椎茸組合が設立された。2009年12月には工場が完成。菌床作りから出荷まで一貫生産する「いわきゴールドしいたけ」は、生育に最適な環境を実現できる施設と、組合員の高い意識によって、茎が太く肉厚で、香りも高く、ジューシーな味わいを実現している。高品質なシイタケは好評を博し、初年度から生産目標をクリアする順調なスタートを切る。東日本大震災に襲われたのは、事業拡大のため追加融資の話もまとまった矢先のことだった。「幸いにも施設に大きな被害はなく、当日も出荷をすることはできました。しかし福島第一原子力発電所の事故から数日後には取引先から納品の休止を求める連絡が届き、一切の出荷が停止。その状況が続き、まったく先が見えなくなってしまいました」と、代表理事の渡部明雄氏は語る。屋内避難指示が出ているため人手が足りず、生産しても販売先が無い。それでも菌床は生き物なので、手を入れなければ施設が駄目になってしまう。他の会社の社員にも助けてもらいながら、渡部氏たちは施設の維持に努めた。「2010年には新卒者を19人採用し、9人に2011年入社の内定を出していました。一緒に働くことを選んでくれた若者たちの未来のためにも、事業を止めるわけにはいかない。どういう状況でもやり抜くという思いだったんです」。渡部氏の思いは通じ、若い職員たちも避難先から復帰。施設内の放射線量も国が定める基準を大幅に下回る数値となっており、新たな生産も可能となった。組合による独自の放射線量検査に加え、行政機関の充実した検査体制のもと、安全なシイタケを生産。大手取引先の厳格なチェックもクリアし、信用の獲得につながっていった。しかしながら既存の取引先への販売は一部にとどまっており、新規取引先の開拓が急務となっていた。福島県の生シイタケ出荷量は2012年には全国7位となる3,664tを誇ったが、2014年には1,285tまで落ち込んでいる。この生産量の低下に渡部氏は活路を見出した。「行政・生産者一体で取り組んでいる風評対策の現状を知っていただければ、需要はできると判断しました。販路開拓のため、さまざまな機会を通して小売店の仕入れ担当者に施設の見学をしてもらい、生産に懸ける思いを伝え、厳重な初年度から目標を達成順調なスタートを切る若者たちの未来のためにどんな状況でもやり抜く十分な風評対策により新規取引先を獲得30農事組合法人いわき菌床椎茸組合2030年復興への歩み[売上高(万円)]2010年17,9482011年15,312●1月 培養棟増設●いわき市新規高卒者雇用優良企業感謝状2012年26,544●3月 物流施設設備、生育棟増設●第37回いわき市農林業賞受賞2013年32,2892014年29,617●11月 いわき市勿なこそ来町に菌床製造工場設立●第56回福島県農業賞受賞2015年53,043●第65回全国農業コンクール優秀賞受賞●いわき市新規高卒者雇用優良企業感謝状2016年102,9002017年115,90040,00060,00080,000100,000120,000020,000地元の新規高卒者を正社員として積極的に雇用し、マイスター制の導入によってエンパワーメントを促進する。出産後の職場復帰を支援するなど、女性の活躍の場を広げていく。若者・女性の雇用を推進地域に元気を与える企業づくり【目指していくゴール】被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出生産施設の外壁にはブランド名が金色に輝く※7月から翌年6月まで津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金141

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