岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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メリットが大きい。 「特に中国のお客さまは木への愛着が日本以上に強いんです。そのせいか、木地呂塗りよりも、木目がはっきり見える拭き漆の方が好まれます。文化的な違いは、大きな気付きでしたね。元々、拭き漆の製品は定番アイテムではなかったのですが、それを機に定番化しました」。こうした“逆輸入”も含め、海外の反応を生かした製品開発が、独自性をいっそう豊かにしている。2018年2月には、香港に現地法人を設立した。海外で販売する場合、現地バイヤーに買い付けてもらうケースが多いが、流通量が少なく、大きくて高価な製品は好まれないという難点があった。自社で運営を行えば、店舗が1つ増えたのと同じ利益を得られる。香港の現地法人は設立から1年未満で国内の売り上げを上回るほどに成長し、業績に占める海外売り上げの割合は年々増加。今後は上海や台湾、中国内陸部などへの店舗展開を考えているそうだ。現在、門間箪笥店では6人の職人が在籍し、3人が指物(木工)、3人が塗りを担当している。工房では、若手から80歳を超えるベテランまで、さまざまなキャリアを持つ職人が共に製造を行う。2年前には、自衛隊で長年木工仕事をしていた人が入社し、指物部門で活躍中だ。 「伝統のものづくりには、必ず機械では代替できない部分があります。生産効率が上がればコストは下がるけれど、本質的な手仕事の部分までなくなってしまうのは残念ですよね。たんすを使い続けてくれる人のためにも、職人の雇用を増やしていくことが大切だと考えています」。一泰氏が就任後、新たな雇用や新事業などさまざまな改革を進める中で、考えが合わずに退社した社員もいた。現在は、ビジョンを共有するミーティングを定期的に行うなどコミュニケーションを深め、全員が同じ目線で取り組んでいけるよう努めているという。自らの役割は、職人が気持ち良く働ける場を守り、職人が作った物を売るインフラをつくることだと一泰氏は語る。その思いの根源にあるのは、子どもの頃に見ていた、職人が誇りを持って仕事に取り組む光景だ。 「職人の地位がまだまだ低いと感じています。ものづくりの世界を目指す若者が、学歴に関係なく好きなことを仕事にできる環境にしていくためにも、国内外問わず多くの人に受け入れられる物を作り続けていきたいですね」。一朝一夕にものづくりの現場はつくれない。仙台箪笥の技能がいつまでも暮らしと共にあり続けるために、老舗の挑戦は続く。伝統工芸の世界にも職業選択の自由を28株式会社門間箪笥店モチベーションアップのために売るインフラをつくり職人が気持ちよく働ける場を守る1広く受け入れられる物を作り職人の地位向上を目指す2ビジョンを共有し全員が同じ目線で取り組む3567被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出135

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