岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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これらの取り組みが評価され、戸倉地区のカキ養殖は2016年3月に日本で初めてASC認証を取得した。環境や地域社会に配慮した養殖事業者だけに与えられる国際認証だ。きっかけは、東日本大震災後に地域でボランティア活動をしていた世界自然保護基金(WWF)ジャパンのメンバーに、認証の取得を勧められたことだったという。「すぐに取得を決意しました。かつての過密状態に戻ってしまうのが怖かったのです。認証を取れば、認証が環境を維持するツールになると思いました」。とはいえ、認証取得には審査項目が多く、費用もかかる。そのため、この時も渋る仲間はいたが、「『世界的なスポーツ大会などでは将来的に、認証を取得した食材しか使われない』という話を聞き、部会全員の合意に至りました」と後藤氏。その後、WWFジャパンメンバーや研究者らの協力を得て、無事に審査をクリアした。すると、同年4月からスーパーのイオンが全国販売してくれるようになる。以前は「宮城県産」として販売されていたカキが、「戸倉産」としてPRされるようになった。「モチベーションが上がり、もっと良いものを作りたいと思うようになり、生産技術が向上しました。かつては仲間うちで量を競っていたが、質を競うようになりました」。すると、さらに質は良くなり、単価も上昇。いかだの数を減らしたために以前より漁獲量は減ったが、売上高は上がった。労働環境にも変化が現れた。いかだの台数が減ったため、労働時間が短くなった。東日本大震災前は1日12時間以上、ほぼ休みなく働いていたが、現在は7時間ほどで日曜を休漁日にしているという。後継者不足という長年の悩みも解決しつつある。現在、カキ部会所属の34人のうち、半分は20~30代。東日本大震災前は50代は若手で、大半は60代以上だった。「漁業はきつくて収入も低いから後継者がなかなか来ないんだと思っていました。でも、そうではなかった。やりがいがあるから、きつかろうが、朝早かろうが、漁師になったんだと思います。認証を取得して注目されたことも大きかったのでしょう」。若手はSNSでの発信など、新たな取り組みも積極的に行っているという。後藤氏の息子もその一人。東日本大震災後に漁業をやめて会社員になったが、2015年に戻ってきた。「以前は、休日には仕事をしなかったが、今は人が変わったように、朝早くから楽しそうに仕事をしているんですよ。地元のワイナリーと一緒に、ワインを海中で熟成させる挑戦もしています」とうれしそうに語る。生き生きと働く若者たちのおかげで、一度はすべてを失った浜は、活気を取り戻した。「すべて流されなければ、変えられなかったと思います。チャンスは被災後しかなかった。あのまま『質より量』を続けていたら、いつか破綻したでしょう。あの時、環境に配慮する道を選んで、本当に良かったです」。26宮城県漁業協同組合 志津川支所 戸倉カキ部会モチベーションアップのために高品質なカキを生産できるよう体制整備。働きがいの向上、労働時間短縮を実現1後継者のいる経営体に配慮することで、若者の就業が増加した2国際認証を取得して注目を浴び、さらなる品質向上を目指すように3被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出ASC認証取得でさらに品質が向上働きがいがアップし後継者が増えた後継者あり60ポイント家族46ポイント単身40ポイント例えば、「後継者あり」の漁業者は、ギンザケのいかだなら10台、カキのいかだなら15台所有できる。所有可能ないかだの台数戸倉地区のポイント制度=÷〈一経営体当たりの総ポイント数(持ち点)〉〈いかだ一台当たりの魚種別ポイント数〉ギンザケ …………………6ポイントカキ ………………………4ポイントホタテ、ホヤ ……………3ポイントワカメ ……………………2ポイント127

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