岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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に交付され、試行錯誤を繰り返しながらの初蒸留が始まった。2017年2月、「米焼酎ねっか」が完成した。すでに販売先は決まっている。「果たして売り物になるのか」という不安の中、最初の一樽を5人で試飲。「うまい!」「この味なら戦える」と仲間たちに笑顔がこぼれた。只見で行われた試飲会での評判も上々。手応えを感じた脇坂氏は、いつかは挑戦したいと考えていた国際的な蒸留酒のコンクール、IWSC(インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション)への出品を初年度から決意。いきなりシルバーメダルを受賞した。「できあがるまでは不安もありましたが、海外で評価されたことは自信になりました」と脇坂氏は語る。地域の口コミに受賞効果も重なり、数カ月で在庫が無くなるほどの売れ行きを見せていたのだ。好評を受け、ねっかは事業を拡大。2018年4月にはテイスティングルームをオープンさせ、蒸留所の増設も検討中だ。雇用創出にもつながり、Uターンで戻ってきた20代の若者を通年雇用するほか、冬季の仕込み時期には5人の雇用を生み出し、さらに1人が増員予定だという。米焼酎の製造量も増やした。6haの自社圃ほ場じょうには、すべて酒造好適米を作付けしているが、さらに製造量が増えれば他の圃場にも作付けを依頼することになり、只見の農地の維持につながる。会社設立時に考えていた農業と酒造のサイクルが、うまく回り始めるはずだ。IWSCへの挑戦も続けている。2018年7月には「米焼酎ねっか」に加え、日本酒の吟醸酒と同じように米を精米歩合60%まで削った「ばがねっか」を出品し、2銘柄でシルバーメダルを獲得。同年11月に香港で行われた「HKIWSC」では「米焼酎ねっか」が最高賞のゴールドメダルに輝き、国際的な評価はさらに高まった。常温で持ち運べる焼酎は輸送がしやすく、海外への展開も視野に入れており、設立からわずか2年で事業は広がりを見せている。行政と連携して新たな取り組みも始めている。一つは田植えと稲刈りを通じて地域外から人を呼び、地域の魅力を伝える農業体験イベント「KARIYASU」。もう一つは高校3年生に酒米と酒造りを体験してもらい、できた酒を2年後の成人式にプレゼントすることで、進学や就職で地域を離れた後に魅力を再認識してもらう「18歳の酒プロジェクト」だ。地域を次世代につなぐために、脇坂氏は積極的に活動を続けている。「只見へは移住をしてきましたが、家族も美しい自然と住人の優しさを気に入っています。将来、子どもたちが地元に残ると決めたときのためにも、次の世代が安心して生活できる町をつくっていきたいですね」。米焼酎を柱に地域を守る住み続けられる町づくり国際コンクールで金賞獲得地域雇用の創出にも成功24合同会社ねっか9地域を盛り上げるために農業と酒造のサイクルをつくり地域の過疎化を防ぐ1国際コンクールに挑戦することで地域に自信を与える2地域内外に魅力を伝える取り組みを行政と連携して展開3被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出117

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