岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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約1,000本のワインは全国から注文が相次ぎ、瞬く間に完売。その手応えを感じながらも、「まず地元のお客さまに味わっていただきたい」という思いもあって、2年目以降は販路に地元の酒販店や直売所も組み入れた。ワインの仕上がりについては、試飲したソムリエや購入者から、「味わいにミネラル感と爽やかな酸味があって、海の幸と相性の良いワイン」との評を獲得した。「リアスワインは、製造面でも味わいの面でもまだまだ成長過程だと考えています。地元でワイン造りができる喜びと責任を感じながら、陸前高田の海の幸などの食材のおいしさを引き立てられるようなワインとして、今後もより一層進化させていきたいです」。被災以降、神田葡萄園ではワイン造りと並行して、ブドウの収穫体験、見学会も積極的に実施。2014年からは「収穫ボランティア」と題した、参加者にブドウの収穫を体験してもらうイベントを開催。現在も収穫期にはSNSを通じて全国から参加者を募るなど、陸前高田へ実際に足を運んでもらうための取り組みを続けている。その背景にあるのは、「被災前とは違い、ただ商品を売るだけでなく、多くの人を陸前高田に呼び込まないと、街そのものが衰退していき、東日本大震災の記憶もただ風化していってしまう」という熊谷氏の危機感だ。「子ども連れのご家族をはじめ、全国各地からさまざまな方々が収穫ボランティアに参加されています。ブドウのおいしさを発信することはもちろんですが、このイベントを通じて、地元の食材の魅力や美しい景色を直接体験していただくことで、陸前高田の多彩な魅力に触れ、また来たいと思っていただけるようになれば最高ですね。現在は当社単独の活動ですが、将来的には他のワイナリーや漁業関係者も含め、地域全体で連携し、観光ツアーなども企画していきたいです。まだまだ被災のイメージが強く残る場所ですが、やがては景観の美しさ、海の幸の恵みなどのイメージが自然と浮かんでくるような、夢のある街になってほしいと思います」。被災の街から夢のある街へ地域の多彩な魅力を発信21有限会社神田葡萄園地域を盛り上げるためにオリジナルのワインを醸造し、地元食材を引き立てる1醸造したワインを軸に地元の魅力を発信2陸前高田市全体のブランディングのため地元の他事業者と協力312自社に増設した設備で行われるワイン醸造。小規模ながら1本1本丹精込めて製造されている3三陸海岸からの海風をたっぷりと浴びたブドウは、内陸部のものと比べてすっきりとして爽やかな味わい4他の農家から仕入れたリンゴも、ジュースに加工して販売している5「マスカットサイダー」や「葡萄液」など人気の飲料を生産する工場。オートメーション化が進められ、より効率的な生産を可能にしている6神田葡萄園の看板商品である「葡萄液」 7全国にファンが多い「リアスワイン」4567被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出105

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