岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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プロジェクトとのパートナーシップをご提案しました」(浅井氏)。TKプロジェクトは、「ホップの里からビールの里へ」を合言葉に、遠野市民がもっとホップに誇りを持てるようになるための活動を展開中。2015年から始まった遠野産ホップIBUKIの収穫を祝う祭典「遠野ホップ収穫祭」や、遠野市とホップとビールをさまざまな角度から体感できる体験型コンテンツ「遠野ビアツーリズム」は、プロジェクトの代表的なイベントで、年々規模が大きくなっている。これらはいずれも遠野市全体を巻き込んで展開されるもので、上閉伊酒造も街の活性化や未来創造のために力を貸している。その一方で、新里氏は、「TKプロジェクトと連携したことで、低迷気味だったビール事業がようやく安定した」と言う。「まず、横浜オクトーバーフェストやフレッシュホップフェストなど、上閉伊酒造単独では絶対に出展することができないような大きなイベントに、TKプロジェクトの一員として参加させてもらえるようになったことが大きいと思います。また、事業の拡大や遠野市への還元という点では、私たちだけでは思い付かなかったアイデアをいただける点も助かっています。フレッシュホップフェスト用に限定商品を作ったのも二人のアイデアによるものなんです」(新里氏)。TKプロジェクトが推進するビールの里構想は、まだ道半ばではあるものの、着実に前進をしている。その大きな要因は、さまざまなプロジェクトが行政の強力なバックアップの下で具体化していることにある。「実は、遠野市役所の産業部六次産業室の中に、『キリンと共に地域活性をする』と明文化された担当者がいるんです」(浅井氏)。行政の場合、特定の企業にだけ手を貸すということは公平性の観点からなかなか難しいものだが、遠野市の場合、「この街の課題を解決できるのはキリンだ」という認識が強いため、強固なバックアップ体制が実現している。「私たちの相談や提案に耳を傾けてくれて、すぐに“それを具現化するために何をすべきか”という話に移行できるのが、ありがたいですね。ここまで風通しが良いのは、遠野市とキリンが50年以上ホップ栽培を通して関係を築いてきたおかげでもあるでしょう」(浅井氏)。地方都市で地域活性化を実践していく際には、どうしても人材不足という課題に直面して計画が頓挫してしまいがちだが、その点もクリアしているという。「地域おこし協力隊制度を最大限に活用できるのが遠野市の特徴です。ただし、希望者を誰でも採用するわけではありません。効率的な事業化を目指し、プロジェクトごとに私たちが求める最適なスキルを持つ人材を厳選して採用する仕組みをつくってくれているんです」(吉田氏)。ビールの里構想を実現させるためには、課題やすべきことがまだまだ多く、先は長いと言うが、ビールの里構想について話す3人の顔は明るい。「小さくても、個人的なものでもいい。住民たちがビールの里に関係する何かに自発的に取り組むようになってほしい」と浅井氏は夢を語る。一方、新里氏は、「自身の事業を成熟させていくことで、ビールの里構想の力になっていきたい」と見解を述べる。「まずは、もっと事業の力を付けて、会社の基盤をしっかりとすることが大切だと感じています。それが遠野市唯一の酒蔵としての役割だと思いますし、遠野市やビールの里構想のためにもなるはずですから」(新里氏)。プロジェクトを支える強力な行政のバックアップ20上閉伊酒造株式会社地域を盛り上げるために高品質な清酒を製造し、県内外に遠野市の地酒をアピール1競合企業と手を取り、クラフトビールを通じた地域活性化を推進2行政のバックアップで、プロジェクトの早期事業化を目指す3被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出清酒が製造される棟の外観101

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