復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

52)

新たな観光需要の創出

復興前期復興後期

課題
① 被災地の観光資源について、どのように付加価値を高めるか
② 海外のインバウンド客をどのようにして取り込むか

東日本大震災における状況と課題

 被災地の観光産業を活性化するためには、震災前の観光施設・設備の復旧だけでなく、地域の自然や文化を観光資源として魅力を高め、新たな観光需要を創り出し、新規の観光客を域外から誘致することが不可欠である。
 特に、訪日外国人旅行者は2019年度まで全国的に急増し、東北の外国人延べ宿泊者も2015年にようやく震災前の水準を回復した。国は2020年までに東北6県の外国人延べ宿泊数を150万人泊とする目標を掲げ(1)、2016年を「東北観光復興元年」と位置づけ、東北の観光復興に取り組み、目標を2019年に達成することができた。
 今後、被災地の経済が持続可能な成長を続け、本格的な復興を実現するため、どのようにして地域の観光資源の付加価値を高め、魅力ある観光商品として創出するか、また、多くの需要が見込まれる海外からのインバウンドの誘客をどのように戦略的に増やしていくかが課題となっている。

東日本大震災における取組

海をテーマにした体験型観光プログラム(課題①)

 宮城県南三陸町で展開されている「金比羅丸ブルーツーリズム」は、ホタテやカキ、ワカメ漁が盛んな沿岸部地域を中心に「海」という資源を多面的に活用した新たな観光事業を展開している。具体的には、マリンレジャーや漁業体験、トレッキングなど魅力的な体験観光プログラムを企画して多くの観光客を集客し、観光客が帰った後はインターネットを通じて地元名産品を販売するなど、ブルーツーリズムによる観光資源の活用を進めている(2)(3)

地域の森林資源を活用した宿泊滞在施設の整備(課題①)

 岩手県陸前高田市の株式会社箱根山テラスは、2014年9月、地域の森林資源を活用した宿泊滞在施設を整備し、「広田湾を一望できる緑豊かな山間」の環境を活かして、地域内外から多くの観光客を呼び込んでいる。
 建物の壁や床は気仙杉や県産材を用いており、木質ペレットを燃料とするストーブやボイラーを設置して電気に頼らない熱エネルギーも実現し、木のぬくもりを感じさせる施設として、滞在型のみならずビジネスユースの宿泊客の集客にも成功している。また、施設内のカフェバーやテラスのほか、併設したワークショップルームで気仙大工の技術を体感するセミナーや木材を活用したDIYを学ぶワークショップの開催などを行うことで住民の交流の場にもなっており、地域産業の振興にも貢献している(4)

富裕層を対象としたインバウンドの誘客(課題①②)

 「東北プレミアムサポーターズクラブ」は、株式会社ダイヤモンド・ビッグが中心となって、欧米の富裕層を対象とした観光プログラムを創出するため、旅行会社や旅館・ホテル業、地域DMOや交通機関など観光関連の企業約20社によって結成された。本クラブは、欧米の富裕層向けに事業者が共同して東北の旅行商品を開発し、海外の旅行会社やメディアに対してプロモ-ションを行い、東北旅行商品のアピールに取り組んでいる。事業初年度の2018年度は、年間延べ宿泊者数が成果目標の200人を大幅に超える1194人となり、訪日外国人から大きな注目を集めつつある(事例52-1)。

インバウンドを対象とした地域DMOの設置(課題①②)

 宮城県では、訪日外国人観光客へ向けた取組を展開するために各地域にインバウンドDMOを設立するなど、インバウンド受入体制の強化が進められた。県内には、一般社団法人気仙沼地域戦略、一般社団法人石巻圏観光推進機構、株式会社インアウトバウンド仙台・松島、一般社団法人宮城インバウンドDMOの4機関が設置され、DMOを中心とする観光地域づくりが推進された。
 仙台市・名取市・東松島町を中心とする株式会社インアウトバウンド仙台・松島では、仙台市及び仙台空港を含む周辺エリア6市3町を拠点都市圏とし、圏域にある温泉や自然、歴史・文化などの観光資源を活用して新たな観光プランを開発している(5)
 一般社団法人宮城インバウンドDMOは、インバウンド観光事業を推進する株式会社VISIT東北を中心に2017年3月に設立された(6)。本DMOは、宮城県南部4市9町の市町により設立された「宮城インバウンド推進協議会」が策定した観光戦略に基づき、広域的なツアーの造成やコンテンツづくりなどを民間企業の経験を生かして行っている。こうした官民による役割分担の明確化・被災地方公共団体間での連携を通じ、海外からの教育旅行の誘致、外国人への情報提供や海外からの観光に係る人材育成、さらにはウェブサイトの多言語化などが進められている(7)(8)

教訓・ノウハウ
① 地域資源を付加価値の高い観光商品として創出する

地域資源の魅力を見直し付加価値の高い商品を企画し発信する。

観光客を誘客した後もインターネットを通じて被災地の魅力ある商品をPRする。

② インバウンドの誘客体制を強化・整備し、旅行商品の開発やプロモーションを展開する

官民の垣根を超えた協力体制を構築し、インバウンド集客のための戦略及び仕組みをつくる。

地域の垣根を越えて事業者の連携体制を構築し、インバウンド誘客に取り組む。

<出典>
(1)  「観光立国推進基本計画」2017年3月閣議決定
(2) ドコモ東北復興・新生支援 笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト「ブルーツーリズム 新しい漁業のカタチ 南三陸ブルーツーリズム 金毘羅丸」2014年9月
(3) 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構「東日本大震災から7年 事例に学ぶ生活復興」2016年3月p96-97
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m18/04/20180410_seikatsufukko.pdf

(4) 復興庁「私たちが創る 産業復興創造 東北の経営者たち」2016年2月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat4/sub-cat4-1/20160210094116.html

(5) 株式会社インアウトバウンド仙台・松島
https://www.inoutbound.co.jp/

(6) 宮城インバウンドDMO推進協議会
(7) 公益社団法人日本観光振興協会「観光地域づくりの新しい潮流に学ぶDMOなび 第12回DMO先進事例に学ぶケース8:一般社団法人宮城インバウンドDMO(地域連携DMO)」2017年12月
https://www.nihon-kankou.or.jp/dmo/news/news15.html

(8) パソナグループ「VISIT東北『一般社団法人宮城インバウンドDMO』設立」2017年3月
https://www.pasonagroup.co.jp/news/index112.html?itemid=2104&dispmid=798

教訓・ノウハウ集トップに戻る