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水産業の販路の開拓
復旧期復興前期復興後期
東日本大震災における状況と課題
東北沿岸地域の基幹産業である水産業・水産加工業の再生は、地域経済の活性化にとどまらず、わが国の水産業・水産加工業の将来にとっても重要な課題である。被災した漁業者や水産加工事業者は、早期に操業を再開し失った販路を回復することが求められた。さらに、消費者ニーズや水産市場の変化に的確に対応した付加価値の高い新商品の開発を進め、国内外で新たな販路を開拓することが求められた。
東日本大震災における取組
展示商談会の開催(課題①)
商工会議所をはじめとする水産業界の関係団体で、水産加工業の復興支援を目的としたコンソーシアム「復興水産加工業販路回復促進センター」(構成:東北六県商工会議所連合会、全国水産加工業協同組合連合会等)を組織した。同センターは、水産庁の復興水産加工業等販路回復促進事業を活用して、2015年度から仙台で「東北復興水産加工品展示商談会」を開催し、2019年度までに延べ約600社が出展、約2万5千人のバイヤーが来場した。事前に出展者とバイヤーの希望する品目を調査しマッチング等を行うことで、一般的な商談会よりも高い成約率が得られており、「仕事に繋がる」商談会として、販路開拓に貢献した(1)。
海外への販路開拓(課題①)
三陸沿岸地域の水産加工業者は、水産物の国内市場は縮小傾向にあることから、震災を契機に海外へ新たな販路の開拓を目指したが、1社だけでは商品数・量の規模が小さく、また、海外営業や貿易実務に精通した人材確保が課題であった。そこで、経営資源を補完・共有するため、三陸沿岸地域水産関係会社7社による共同出資により、2016年9月、地域初の輸出商社として、株式会社三陸コーポレーションを設立した。7社が共同で事業を展開することで一定の商品ラインアップを揃えることができた。
海外展開に当たっては、フィリピンやタイ等の東南アジア諸国を中心に、統一ブランド「SANRIKU」で、海外仕様のパッケージの作成をはじめ海外市場のニーズに即した商品開発を実施した。また、現地の小売店や飲食店等に対し、訪問商談や試食提案会を定期的に実施するほか、現地の一般消費者に対しては、小売店等と連携し、食べ方や品質等の理解促進のためのプロモーション活動を実施した。さらに、現地の輸入卸売業者を産地に招聘し、加工場見学等を通じて商品に対する理解を深化させ、また、海外スタッフを営業担当として採用することで、海外展開の体制の強化を図っている。現在、参加企業は11社に増え、着実に販路を開拓している(2)。
地域の事業者の共同による加工食品の生産・販路開拓(課題①)
宮城県石巻市では、2016年、市内の水産加工業者10社で石巻うまいもの株式会社を設立、それぞれ得意分野とする魚介類を扱う業者やかつお節企業、レトルト設備を持つ企業などが共同して、2018年に「石巻金華茶漬け」シリーズを発売し、初年度は10万食を販売した。宮城県内の百貨店でも販売され、土産物や贈り物として人気が高く、2019年12月からはJAL国際線の機内食に採用され、国内外の多くの乗客にふるまわれた。その後、「石巻金華釜めし」、「魚醤」などが開発された。
こうした商品開発は、各社が持つ製造設備やノウハウ、原材料の情報を共有化しあう「バーチャル共同工場」の仕組みに支えられており、営業面でも10社が共同して販路を開拓するなど、各社の強みが相乗効果を発揮している(3)。
また、新商品の開発に当たっては、復興庁の「チーム化による水産加工業等再生モデル事業」(被災地の複数の水産加工業者等が連携して行う商品開発や販路開拓等の先進的な取組に対する支援)も活用した。
生産構造の改革による品質とブランド価値の向上(課題①)
宮城県南三陸町のブランドの「戸倉っ子かき」を生産する宮城県漁協志津川支所戸倉部会では、震災前からかきの養殖棚の間隔が狭く過密状態で、かきの稚貝に栄養が行き届かず品質の劣化が門だとなっていた。津波により養殖棚や稚貝がすべて流出したことから、これまでの生産方法を抜本的に見直し、養殖棚の台数を3分の1まで減らす画期的な構造改革を行った。2012年度から国の支援事業を活用して新しい養殖方式をスタートさせ、その結果、かきの品質が向上し、ブランドの価値を高めることができた。この取組により、日本で初となる国際認証「ASC認証」(ASC:水産養殖管理協議会)を取得した(事例48-1)。
「展示商談会」の開催により、これまで取引関係がなかった事業者との商談機会を拡大する。
被災地の商工団体、水産加工業団体の共同開催により、地域の水産復興の機運を高める。
成長が期待されるアジア市場のニーズに即した商品開発を行い、新たな販路を開拓する。
災害を機に従来の生産構造を改革し、品質を向上させてブランドの価値を高め、新たな販路を開拓する。
(1) 東北経済産業局「東北地域における産業復興の現状と今後の取組」2020年2月
https://www.tohoku.meti.go.jp/koho/topics/earthquake/pdf/190213_1.pdf
(2) 復興庁「チーム化モデル事例集」2018年3月
https://www.reconstruction.go.jp/portal/sangyou_nariwai/suisan/2018/20180518_h29_team-jireishu_a3.pdf
(3) 復興庁「チーム化モデル事例集」2020年3月
https://www.reconstruction.go.jp/portal/sangyou_nariwai/suisan/2019/material/20200622_r1_jireisyu.pdf