復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

37)

事業再開に向けた取組

応急期復旧期

課題
① 中小企業の早期の事業再開をどのように支援するか
② 被災した施設・設備の復旧をどのように進めるか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災により、東北地域を中心に産業経済活動は大きな打撃を受けた。中小企業庁によると、津波・地震被災地域に位置する企業はおよそ80万社に上り、商工業等の被害総額も東北3県でおよそ1兆2558億円とされている(1)。特に、被災地には自動車産業や電子機器産業等が集積しており、これらのサプライチェーンが寸断されたことから、全国の2011年3月の鉱工業生産指数の対前月比▲15.5%は過去最大の低下幅となり、年間でも対前年比▲3.5%を記録するなどわが国の生産活動にも大きな支障をもたらした(2)
 被災地では、企業活動の一日も早い再開や仮設事業所の整備、被災した施設・設備の復旧が課題となった。とりわけ資金力に乏しい中小企業の再建が地域経済の回復にとって急務であった。

東日本大震災における取組

緊急事態への対応や外部生産委託などによる事業継続(課題①)

 宮城県名取市の株式会社オイルプラントナトリでは、緊急事態に備えて事業継続計画(BCP)を策定し、津波被災時には工場の重要な設備を安全に停止させ、タンクローリーなどの運転手に車両を内陸に向けて避難させたことで被害を最小限に留めた。また再処理工場が被災したため、BCPに基づき、岩手県や山形県の同業者に廃油を持ち込んで精製を続けた(3)
 岩手県陸前高田市のヤマニ醤油株式会社は、津波により本社・工場を失ったが、残された製造レシピを活用して、花巻市の佐々長醸造株式会社とライセンス契約を結んで製造を委託し、ファブレス経営(生産設備をもたず生産を完全に外部の他社に委託する経営方式)により事業を継続した(4)
 平時にBCPを策定し、緊急時の被害を最小限にとどめるため、外部生産委託も含めた事業活動の方法・手段等を取り決めておくこと、企業間で積極的に連携することの重要性が改めて認識された(1)

組合における事業継続支援(課題①)

 全日本印刷工業組合連合会(全印工連)は、全国の印刷機械メーカーに対し被災地の機械メンテナンスを、また資材メーカーに対しては安定供給・安定価格を、それぞれ対応依頼した。また、被災組合員企業が製造困難になった場合、仕事の受入れが可能な組合員企業を紹介し、組合員同士で代替生産ができる体制を整えた。
 全印工連の依頼に応じ、近畿印刷産業機材協同組合は組合員各社が被災した取引先に対し復旧のためのメンテナンスを行い、塩害を受けた機械の修理についてもほぼ無償で実施した。原料については全国製紙原料商工組合連合会等が所属会員に対し、国内供給の優先等、安定供給・安定価格に努めるよう連絡した(5)

経営相談窓口の開設・経営専門家の派遣(課題①)

 宮城県は、2011年11月、沿岸部の各商工会議所及び商工会に、相談窓口として「復興相談センター地域事務所」を設置した。経営や金融の専門家を震災アドバイザーとして配置することにより、事業再開に必要な手続きをスムーズに着手できるよう指導させた(6)
 中小企業基盤整備機構(中小機構)では震災復興支援アドバイザー制度を創設し、中小企業診断士などの経営専門家を被災中小事業者に派遣し、事業再建計画の策定や販路開拓、そして地方公共団体・支援機関の復興計画策定などに対する助言を行った(7)

仮設事業所の整備による事業再開(課題①)

 被災企業の一日も早い事業再開を目指すため、中小機構が市町村から提供された用地に仮設事業所を整備し、市町村を通じて被災企業に無償で貸与した。
 福島県飯館村では、原発事故により多くの事業者が避難を余儀なくされた。飯館村は村内事業者が避難先でも事業活動が行えるよう避難先の市町村に協力を求めたところ、避難先の福島市が市内の松川工業団地に飯舘村の被災事業者のための仮設工場を計画し、中小機構による仮設工場等の整備が実現した(8)

産業支援機関のネットワークによる事業再開支援(課題①②)

 全国の産業支援機関は、日頃のネットワークを活かして、被災した中小企業等の早期の事業再開を支援した。日本商工会議所は、全国の商工会議所会員の遊休機械等を被災した中小企業に提供する「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」を実施した。「機械の目利き」である専門家が、被災した中小企業等のニーズに応じた遊休機械等をマッチングし、早期の事業再開に大きく寄与した。(事例37-1)。
 また、福島県浜通り地域等の被災事業者・農業者の事業再開に向けて、2015年8月に、国、福島県、民間からなる「福島相双復興官民合同チーム」を創設し、個別訪問からコンサルティング支援、販路開拓や人材確保等を支援している。2017年5月に公布・施行された改正福島特措法に基づき、同チームの中核である公益社団法人福島相双復興推進機構へ経済産業省及び農林水産省の職員を派遣している。

グループ補助金による施設・設備の復旧支援(課題①②)

 国は、被災地域の経済・雇用の早期回復を目指すため、1事業者の復旧のみならず、地域全体の「産業活力の復活」、「被災地域の復興」、「コミュニティの再生」、「雇用の維持」を重層的に進めていく必要があった。事業者グループの共同事業を促進するため、中小企業等グループの復興事業計画に基づきグループに参加する事業者が行う施設復旧等の費用の3/4(国1/2、県1/4)を補助する中小企業組合等共同施設等災害復旧費補助金(中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業)を2011年度に措置した。被災中小企業等がグループで復興事業計画を策定することで、サプライチェーンの形成や地域の経済・雇用への高い貢献等が期待でき、効果的な被災地域の復旧・復興に向けた支援につながった。
 岩手県釜石市のミネックス株式会社がグループ補助金を活用して肥料製造施設等を整備し、原料供給事業者等と共同で高付加価値肥料等の開発や肥料の迅速・安定供給を可能とするサプライチェーンを構築し、除塩対策用肥料等の供給により津波被災地域の農業再開に貢献した。さらに未利用水産資源を活用した肥料の開発により地元水産業の振興にも貢献している(9)

教訓・ノウハウ
① 被災企業の事業継続・再開に向け、企業間連携や産業支援機関によるサポートを行う

平時よりBCPを策定し、外部生産委託も含めた緊急事態への対応を取り決めておく。

早期の事業再開ができるよう、組合や専門家によるサポートなど、早期に支援体制を確立する。

被災地域の経済・雇用の早期回復には、事業者グループによる共同事業を促進する。

② 仮設工場等の用地確保や設備の導入を支援する

市町村内に仮設工場等の用地を確保できない場合、自治体間の連携により市町村外に用地を確保する。

産業支援機関のネットワークや中小企業グループへの支援措置を活用し設備を復旧する。

※事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan):企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと。
<出典>
(1) 中小企業庁「中小企業白書 第2章 東日本大震災の中小企業への影響」(2011年版)
(2) 経済産業省「震災に係る地域別鉱工業指数でみる23年の鉱工業生産(平成23年年間回顧発表)」
(3) 千葉県「東日本大震災を忘れない!事例から学ぶBCP(事業継続計画)策定のノウハウ」2020年2月
https://www.pref.chiba.lg.jp/keishi/keiei/bc-column20141016.html

(4) 復興庁「被災地での55の挑戦―企業による復興事業事例集―」2013年3月p45-46
https://www.reconstruction.go.jp/topics/post_197.html

(5) 全国中小企業団体中央会「事業継続に取り組む組合事例」
(6) 公益財団法人みやぎ産業振興機構・産業復興相談センター
https://www.joho-miyagi.or.jp/rsc-m

(7) 中小企業基盤整備機構「震災復興支援アドバイザー制度」
(8) 中小企業基盤整備機構「仮設施設整備事業 整備事例(福島県)」
(9) 復興庁「岩手・宮城・福島の産業復興事例30 想いを受け継ぐ次代の萌芽」2019年2月p78-81
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat4/sub-cat4-1/20190215142526.html

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