復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

36-1)

海岸堤防等の復旧・復興

事例名 多様なニーズに配慮した海岸堤防等のデザイン
場所 宮城県、岩手県
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 各県、各市町村、地区住民、専門家 ほか

取組概要

 津波で被災した地域では、安全性の確保に加えて、景観や観光、自然環境など地域のまちづくりの多様なニーズに配慮して海岸堤防等を計画、建設した。

具体的内容

まちから海への眺望を確保した堤防デザイン例(女川町、気仙沼市内湾地区魚町)

 女川町では、海が見えなくなることを防ぐために、①沖合に津波に対して倒壊しない粘り強い防波堤を整備、②L2津波の高さ以上に土地を造成、または盛土を行い、居住地を集約、③津波被災した低地部は産業用地として活用し、特に人の集まる商業地はL1津波高さまで盛土を行うこととした。

まちから海への眺望を確保した堤防デザイン例(女川町、気仙沼市内湾地区魚町)

 気仙沼市内湾地区魚町では防潮堤の高さをT.P+5.1mを基本とし、余裕高さ1.0m相当のフラップゲート式(可動式)堤防を採用し、まち側の嵩上げを高くすることで、海への眺望が確保された。可動式は他の堤防と比べて高額であったが、中心市街地である内湾地区の経済への影響を想定した際、妥当であると判断され採用された。まち側の建物を一斉に壊し嵩上げ工事完了を待つと、建物の再建が遅れ地権者の負担が増えるため、先行して嵩上げする街区を決め早期再建を望む土地をそこに集約換地する工夫がなされた。

まちから海への眺望を確保した堤防デザイン例(女川町、気仙沼市内湾地区魚町)

観光に配慮した堤防デザイン例(気仙沼市内湾地区南町、名取市閖上地区)

 気仙沼市内湾地区南町では、海が一望できるウォーターフロント施設(公共・商業施設)を防潮堤と一体とすることで防潮堤が目立たなくなる工夫をした、南町海岸商業施設「迎(ムカエル)」と気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザ「創(ウマレル)」が南町海岸公園ととともに整備された。まち側からは施設の1階の物販施設、飲食店及び駐車場に、海側からは斜面緑地や階段を介して施設の2階に接続でき、また、通行できる陸閘が5箇所設けられ、海側とまち側を行き来できる動線が最大限確保されている。

観光に配慮した堤防デザイン例(気仙沼市内湾地区南町、名取市閖上地区)

 名取市閖上地区では名取川の堤防側帯の上に商業施設「かわまちてらす閖上」が建設された。物販や飲食など26店舗が入り、水辺を楽しみながら食事ができる。県道からのアクセス道路も復興交付金を活用して整備されている。

観光に配慮した堤防デザイン例(気仙沼市内湾地区南町、名取市閖上地区)

景観や自然環境に配慮した堤防デザイン例(岩沼市、気仙沼市日門漁港、石巻市雄勝町)

 岩沼市では土台等に震災廃棄物を用いて避難丘を築造し、丘と丘を園路でつなぎ法面に全国のボランティアによって植樹が行われ、将来「緑の堤防」を形成する。「千年希望の丘」は津波の威力を減衰し人々を守る多重防御の1つであり、震災の伝承と防災学習の場でもある。

景観や自然環境に配慮した堤防デザイン例(岩沼市、気仙沼市日門漁港、石巻市雄勝町)

 気仙沼市日門漁港では、地域の観光振興や避難対策にむけて、また、景観そのものが地域の財産であるという住民の意見を踏まえ、堤防の背後の国道から海が見えるよう国道嵩上げを堤防整備と併せて実施する。旧鉄道敷に防潮堤を配置し砂浜を可能な限り確保する。環境アドバイザーから助言を受け、コクガンが上陸し休息する時間帯は施工作業をしないなど、設計のみならず施工計画でも自然環境への配慮がなされている。

景観や自然環境に配慮した堤防デザイン例(岩沼市、気仙沼市日門漁港、石巻市雄勝町)

 石巻市雄勝町浪板地区では、無機質になりがちな堤防表面に、町特産の玄昌石のプレートが張られている。石張り作業には住民やボランティアも参加した。中央部の階段等には扇型や三日月形にかたどった石が配置され、地域らしさを表現している。

景観や自然環境に配慮した堤防デザイン例(岩沼市、気仙沼市日門漁港、石巻市雄勝町)
<出典>(他の事例集等への掲載)
・東北復興新聞「[宮城県女川町]千年に一度のまちづくり 人口減少率日本一からの持続可能性への挑戦」(2014年11月)
http://www.rise-tohoku.jp/?p=8884

・阿部俊彦「気仙沼市内湾地区における防潮堤の計画とデザインの合意形成プロセス」土木学会論文集D1(景観・デザイン),Vol.73,No.1(2017年)p37-51
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejaie/73/1/73_37/_pdf/-char/ja

・復興庁「かわまちてらす閖上開業記念式典が開催されました」(2019年4月)
https://www.reconstruction.go.jp/portal/chiiki/2019/20190516natori.html

・合同会社 住まい・まちづくりデザインワークス「内湾ムカエル設計+気仙沼内湾復興まちづくり支援」
http://www.smdw.co.jp/mukaeru/

・千年希望の丘交流センター「千年希望の丘」
https://sennen-kibouno-oka.com/about/

・河北新報社「気仙沼・日門漁港の防潮堤イメージ提示 宮城県、2年後の完成目指す」(2020年8月)
・宮城県「海岸保全施設(防潮堤)整備に係る説明会の概要について」(2019年9月)
・河北新報社「石巻圏・新百景>波板の防潮堤(石巻市雄勝町)」(2020年4月)
<活用された制度>
・海岸保全施設整備事業
・土地区画整備事業
・災害復旧整備事業
・優良建築物等整備事業
・沿岸部交流人口拡大モデル施設整備事業補助金 等

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