34)
道路網の復旧・復興
応急期復旧期復興前期復興後期
② 様々な観点に配慮した道路ネットワークの本復旧をいかにして効率的に構築するか
東日本大震災における状況と課題
東日本大震災では人・物流の要となる道路網が寸断された。発災直後には人命救助や物資供給等の緊急車両等を通行させるために、早急に最低限のがれき処理等により救援ルートを設ける(啓開)作業も含め迅速な応急復旧が求められた(1)。
また、津波で被災した岩手県釜石市鵜住居地区の小中学生約570人は、高台で震災直前に整備されていた三陸沿岸道路(釜石山田道路)に一時的に逃れて全員が助かり、その道路を使って避難所の体育館へと移動もでき、さらに迂回路として人や物の移動に利用され、地域の孤立を回避する「命の道」として災害時にその機能を発揮した(2)。こうした経験を踏まえ、後の本格的な道路ネットワークの復旧・復興過程では、各地の復興を促し、平時の暮らし(医療サービス、産業、観光)を支えるとともに、災害時には命を守る(避難、救急救命、復旧)ための機能を持った、地域内外をつなぐ災害に強い新たなネットワークの早期構築が求められた(3)。
東日本大震災における取組
道路の復旧・復興(課題①②)
<応急対応> 道路の応急復旧にあたっては、国は、東北地方整備局が地元の建設業協会等との間で締結していた協定に基づき、地元の建設会社、陸上自衛隊、警察等と連携し、救急車や警察、自衛隊等の緊急車両が通行可能となるよう幅員を確保する「啓開」を震災翌日から行った。被災直後の余震が続き津波情報が出されている状況の下、がれきの中を突き進み、生存者やご遺体にも配慮した上で啓開を実施した。また、崩落箇所の応急復旧を本復旧も見据えた形で行い、発災後1週間弱で内陸部・沿岸部の縦軸とそれを結ぶ複数の横軸のラインを救援道路として確保した(事例34-1)(1)(4)。
沿岸部の国県道では地盤沈下で満潮時に冠水する箇所が発生し、盛土による道路嵩上げを実施するとともに、潮位を確認しながら冠水する時間帯だけ通行止めにするなどきめ細かな対応を行った。緊急輸送に重要となる橋は一般社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会、一般社団法人日本橋梁建設協会が緊急点検を5月中旬まで行った(1)。
道路の復旧復興においては、新たに造成された防災集団移転団地へのアクセス確保や土地区画整理事業等との一体的な道路整備、橋梁等の耐震化・長寿命化が各地で進められた(5)。
復興に資する三陸沿岸道路等の復興道路(復興の背骨となる太平洋沿岸軸)・復興支援道路(太平洋沿岸地域と東北道をつなぐ横断軸)が事業化され、東北全域をつなぐ道路整備が一部を除き復興・創生期間内である2020年度内に完成した。鵜住居地区等での災害時の経験等を踏まえ、発災から10年のうちに必要な機能を備えた道路を完成するため、基本設計を見直し、6つの設計コンセプト(①強靭性の確保 [ルートは津波浸水区域を回避]、②低コストの実現 [2車線・コンパクト型ICの採用]、③復興まちづくりの支援 [南三陸町で高台に計画されている居住ゾーンとのアクセスに配慮等] 、④拠点と連絡するIC等の弾力的配置 [宮古市において、道の駅を核とした商工業施設に接続するハーフICを追加設置等]、⑤避難機能の強化 [緊急避難路や避難階段の設置等]、⑥ICT [情報通信技術]による通行可能性把握)を策定した(3)(6)(7)。
そのうえでルートやICの位置、IC形式については、予備設計の際に首長ヒアリングを行い、地元と連携することで復興・創生期間内に一部を除き全線開通を可能とした。なお、地域の将来的なまちづくりを前提として、真に必要な道路に限って整備し、無駄な歳出を省くべきことは言うまでもない。
また、岩手県においても、復興まちづくりと連携した道路整備が進められ、例えば、主要地方道野田山形線野田工区は、防災集団移転促進事業と一体となり、高台移転地から国道45号を結ぶ道路として新たに整備(2018年12月開通)された(8)。また、宮古市の主要地方道重茂半島線(熊の平~津軽石)は、津波浸水時の孤立解消のため、海沿いの県道を山側に移設して整備され、重茂漁港から国道45号へのアクセス向上により、基幹産業である水産業を支援している。なお、本路線は、一般県道津軽石停車場線(津軽石)と接続し、2019年3月に三陸鉄道リアス線として復活開業した津軽石駅に直結するため、三陸鉄道開業前に供用(2019年3月)した(9)(10)。
道路網の応急復旧に向けて、発災直後のルート確保を含めて多様な連携が必要になるため平時より関連団体との災害時の協力体制を構築しておく。
応急復旧の際には作業が迅速に行われることももちろんであるが、その先の本復旧のことを見据えて行う。
復興に資する道路整備に際しては、防災力強化の観点や、まちづくりへの活用といった様々な観点を考慮し、早期整備を実施する。
(1) 岩手県「東日本大震災津波からの復興 岩手県からの提言」2020年3月
https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/027/741/fukkou_teigen_i_all.pdf
(2) 国土交通省東北地方整備局三陸国道事務所「釜石山田道路(先行整備区間)が開通して(開通~約1年後)」
https://www.thr.mlit.go.jp/sanriku/05_area/kouka/data/120611kamaishiyamada1year.pdf
(3) 国土交通省東北地方整備局道路部「3.11 復興道路・復興支援道路情報サイト 復興道路」
http://www.thr.mlit.go.jp/road/fukkou/
(4) Car Watch「【特別企画】東日本大震災から1年 世界が驚愕した日本の高速道路(後編)」2012年4月9日
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/523328.html
(5) 宮城県震災復興・企画部震災復興推進課「東日本大震災 再生期後半(平成28・29年度)の取組記録誌」2019年3月p93-98
(6) 国土交通省東北地方整備局三陸国道事務所「三陸沿岸道路専用『公共プラント』(宮古地区)の完成及び稼働開始についてのお知らせ 参考資料①」(2014年8月8日 記者発表資料),
https://www.thr.mlit.go.jp/Bumon/kisya/kisyah/images/52847_1.pdf
(7) 国土交通省東北地方整備局三陸国道事務所「令和2年度 三陸国道事務所事業概要」2020年6月,
https://www.thr.mlit.go.jp/Bumon/kisya/kisyah/images/52847_1.pdf
(8) 岩手県県北広域振興局土木部「平成30年12月25日 主要地方道野田山形線 野田工区が開通しました!!」(2018年12月更新),
https://www.pref.iwate.jp/kenpoku/doboku/1015039/1017061.html
(9) 岩手県県北広域振興局宮古土木センター「【復興関連道路】(主)重茂半島線の道路整備がついに着工!<大沢~浜川目工区>」(2019年2月20日更新)
(10) 岩手県県北広域振興局宮古土木センター「<平成31年3月16日>主要地方道重茂半島線、一般県道津軽石停車場線(熊の平~津軽石)の開通式を開催しました!」(2019年6月21日更新)