3章
新たな取組
3節 被災者支援総合交付金
東日本大震災においては、インフラ等ハード面の復旧・復興に加え、避難生活の長期化に伴う健康面の課題や災害公営住宅等での新たな生活の定着に向けた課題等、ソフト面の課題への対応が必要となった。
「集中復興期間」においては、住宅再建・復興まちづくりが進捗し、恒久住宅への移転が進む一方で、長期にわたる仮設住宅での生活など、これまでの災害では例を見ないような長期的な避難生活を余儀なくされる被災者もおり、復興のステージに応じて、被災者一人ひとりが直面する課題は、個人の置かれた環境等により多様化するものであることが明らかになった。
「復興・創生期間」においては、生活再建のステージに応じた切れ目のない支援を行うとともに、子どもに対する支援なども実施された。
本節では、平成 25 年の「被災者に対する健康・生活支援に関するタスクフォース」に始まり、各種対策が打ち出され、平成 28 年度に、地方公共団体における被災者支援の取組を一体的に支援する「被災者支援総合交付金」が創設されるまでの経緯等について記述する。
1.制度創設の経緯
(1) タスクフォース以前の取組(被災者生活再建支援金の支給等)
住まいや生活の再建に向けて、災害公営住宅や高台移転の整備のほか、阪神・淡路大震災(平成7年)後の平成 10 年に成立した被災者生活再建支援法(平成 10 年法律第 66 号)に基づき、自然災害により生活基盤に著しい被害を受けた被災者に対し、被災者生活再建支援金の支給等が行われた(東日本大震災では1都 10 県に適用された。)。支援金の原資となる基金の財源は、都道府県からの拠出金であり、国は支給された支援金の2分の1に相当する額を補助することとなっている。被災者生活再建支援金については、4章1節で詳述する。
(2) 被災者に対する健康・生活支援に関するタスクフォース
被災者の避難の長期化が見込まれる中、被災者の健康面を中心とした影響、また、災害公営住宅等へ入居した被災者についても、そこでの生活の定着には様々な不自由等が懸念されていた。
そのため、平成 25 年 11 月 13 日、復興大臣を座長とし、関係府省(復興庁、内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省)の局長級により構成する「被災者に対する健康・生活支援に関するタスクフォース」を立ち上げ、現場から寄せられた現状と具体的な課題を総合的に把握するとともに、避難の長期化や地域によって異なる実情といった現場主義に立脚しながら、被災者支援施策全般について検討が行われた。
同年 12 月 13 日、同タスクフォースの議論を経て、「被災者に対する健康・生活支援に関する施策パッケージ」が取りまとめられた。同パッケージは、仮設住宅入居者等の避難者に対する健康支援など各府省の既存施策を横断的に点検し、「仮設住宅入居者等の避難者に対する健康支
援」、「子どもに対する支援の強化」、「医療・介護人材の確保」、「恒久住宅の整備と仮設住宅等からの移転に伴う課題への対応」、「市町村の業務負担に対する支援の強化」の5つの主要論点に沿って、平成 26 年度予算措置に向けた検討事項やその後の運用改善の方向性等を示したものである。
なお、同タスクフォースは、平成 25 年 11 月 13 日に第1回が開催されて以降、同年 12 月9日、平成 26 年7月 24 日、同年8月 25 日、平成 27 年1月 23 日の計5回開催され、後述の「被災者支援(健康・生活支援)総合対策」の策定まで続いた。

https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/20140513_package_gaiyo.pdf(令和4年 11 月1日閲覧)
(3) 被災者の健康・生活支援に関する総合施策
平成 26 年7月、内閣総理大臣から、復興大臣に対し、「相談員や復興支援員のより一層の充実・確保など、高齢者を含む住民の健康管理・生活支援に向けた総合的な施策」を策定するよう指示があった。
総理指示を受け、復興大臣の下でタスクフォースによる議論を行い、平成 26 年8月 25 日、現場の課題への対応による施策の強化となる「被災者の健康・生活支援に関する総合施策」を策定した。
この総合施策は、現場における多岐にわたる課題を「支援体制の充実」、「住居に係るコミュニティ形成への工夫」、「被災者の「心」の復興」、「子どもに対する支援」、「情報基盤の共有」の5つに整理し、それぞれの課題について対応していくものとした。
具体的には、
- ・相談員・復興支援員の充実・確保を図ることなどによる見守り等の活動の推進、多様な主体との連携の促進や人材確保、企業CSRと地域ニーズのマッチングなど、新たなコーディネート機能の強化
- ・仮設住宅の空き住戸の有効活用や災害公営住宅への移転に伴う新たなコミュニティ形成の支援
- ・心のケアセンターなどのほか、地域活性化活動への参画などの生きがいづくりの支援など、現場における様々な課題に対応
の方向性を示したものである。

https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/20140825_sougousesaku_gaiyo.pdf(令和4年 11 月1日閲覧)

(4) 被災者支援(健康・生活支援)総合対策
「被災者の健康・生活支援に関する総合施策」の策定に続き、平成 27 年1月 23 日、タスクフォースによる検討を経て、被災者支援 50 の対策からなる「被災者支援(健康・生活支援)総合対策」を策定した。
同対策は、「被災者の健康・生活支援に関する総合施策」の具体化と新たな取組を追加したものであり、ポイントは、①支援体制の充実と心の復興(見守り活動を行う相談員や復興支援員等の確保や見守り等の活動の更なる推進、被災者の生きがいづくりを支援する「心の復興」事業の実施)、②住居とコミュニティ形成への支援(災害公営住宅におけるコミュニティ形成のため、地域のコミュニティ活動立上げへの支援や入居者募集方法の工夫に関する情報の提供、災害公営住宅等への移転に伴うコミュニティ形成への支援)、③子どもに対する支援(教職員加配やスクールカウンセラー等の派遣、福島県における子どもに対する支援等)となっている。

https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/20150123_sougoutaisaku_gaiyo.pdf(令和4年 11 月1日閲覧)

https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/20150123_sougoutaisaku_gaiyo.pdf(令和4年 11 月1日閲覧)
(5) 被災者健康・生活支援総合交付金
続いて、平成 27 年度には、各被災自治体において、直面する課題・ニーズに的確に対応し、効果的な被災者支援活動を実施できるよう、被災者の健康・生活支援に関する基幹的事業を一括化した総合対策として、「被災者健康・生活支援総合交付金」を創設した。
同交付金は、被災地方公共団体が策定する1つの事業計画の下で、被災者の見守り・コミュニティ形成支援、被災した子どもに対する支援の取組を一体的に支援する仕組みとなった。
平成 27 年度の予算額は、59 億円である。
平成 28 年度には、被災者健康・生活支援総合交付金に、各省が所管していた被災者支援の関連事業を統合した上で、体系的な整理を行うとともに、避難の長期化や災害公営住宅等への移転など、復興の進展に伴い新たに直面しつつある課題へ対応できるよう拡充し、被災者支援総合交付金が創設された。

https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/20150526_h27_1kenkouseikatsukoufukingaiyo.pdf(令和4年 11 月1日閲覧)
(6) 被災者支援総合交付金
平成 28 年度、被災者健康・生活支援総合交付金を拡充して「被災者支援総合交付金」を創設した。同交付金では、生活・住宅再建に関する相談対応への支援や「心の復興」事業の追加、関連事業の統合など、地方公共団体による被災者支援を一体的に支援することとしている。
主な内容は、①災害公営住宅への移転等に伴うコミュニティ形成の活動を支援、②被災者の生きがいをつくるための「心の復興」事業を支援、③県外避難者に対して、相談支援や避難元自治体の情報提供等を実施、④仮設住宅や災害公営住宅等で暮らす高齢者等に対する日常的な見守り・相談支援を実施、⑤被災者の心のケアを支えるため、個別相談支援や支援者支援等を実施、⑥子どもに対するケア、学習支援、交流活動支援等を実施するものとなっている。
また、予算額は「被災者健康・生活支援総合交付金」の 59 億円から大幅に拡充した。
なお、同交付金については必要に応じてメニューの追加がなされており、平成 29 年度には「仮設住宅の再編等に係る子供の学習支援によるコミュニティ復興支援事業」が追加されたほか、令和元年度には「被災者の心のケア支援事業」が別事業から同交付金に統合された。

https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/kouhukin/20160520_koufutsuuchi.pdf(令和5年7月 27 日閲覧)

2.事業概要
被災者支援総合交付金の支援メニューは大きく、①各地域の被災者支援の重要課題への対応支援、②被災者の日常的な見守り・相談支援、③仮設住宅での総合相談・介護等のサポート拠点の運営、④被災地における健康支援、⑤被災者の心のケア支援、⑥子どもに対する支援に分かれており、被災自治体において、被災者支援総合交付金を活用し、被災者の生活再建のステージに応じた、切れ目のない支援の実現を図るための各種取組を実施している。
被災者支援総合交付金全体の予算額は、平成 28 年度 220 億円、平成 29 年度 200 億円、平成30 年度 190 億円、令和元年度 177 億円、令和2年度 155 億円、令和3年度 125 億円、令和4年度 115 億円と推移している。
なお、令和2年度末までに、岩手、宮城両県において応急仮設住宅の供与が終了するなど復興の進展に伴い事業が縮小してきている状況である。
各支援メニューの適用状況や事例は、4章1節に詳述する。