福島県富岡町は、浜通り地方の中央に位置し、太平洋と阿武隈山系の間に広がる自然豊かな町です。2011年に発生した東日本大震災と原発事故で全町避難を余儀なくされました。2017年に町中心部の避難指示が解除され、桜の名所として知られる夜の森(よのもり)地区は2023年4月に避難指示が解除となりました。その夜の森で、町の活気を取り戻したい、町の名物を作りたいという思いからバウムクーヘン専門店『BAUM HOUSE YONOMORI(バウムハウスヨノモリ)』を立ち上げた遠藤一善さん。
福島県いわき市出身でアイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバー・諸橋沙夏さんが富岡町夜の森を訪れ、バウムクーヘン専門店オープンの経緯や地元産米粉を使ったバウムクーヘンの魅力について遠藤一善さんにお話を伺いました。
福島県富岡町夜の森で生まれ育った遠藤一善さん。大学進学を機に地元を離れ30歳の時に富岡町にUターンし、建築設計事務所を開きました。2011年3月、東京電力福島第一原子力発電所の事故により避難指示が出て、埼玉県や福島市などに避難しました。2017年に富岡町の一部で避難指示が解除されると町に戻り、建築の仕事を再開。そこからどういった経緯でバウムクーヘン専門店を始めることになったのか…。
- 諸橋
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「震災前の夜の森地区の風景、景色はどのような感じだったんですか?」
- 遠藤
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「もう家がいっぱい並んでいて、桜が綺麗で賑やかなところ。保育所が近くにあったので、小さな子どももいっぱいいて、本当に楽しいところでした」
- 諸橋
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「遠藤さんは、もともと設計事務所をこの町でやっていたんですか?」
- 遠藤
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「はい。30歳の時、富岡に戻ってきて夜ノ森駅前で建築設計事務所を始めたんです」
- 諸橋
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「建築士をされていた遠藤さんが、どういった経緯でバウムクーヘン店を開くことになったんでしょうか?」
- 遠藤
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「もともと古い建物が好きで。新しい建物を作るより、古い建物を直したり、地震に強くするということをやっていたんです。震災直後も、建物の調査などの仕事をしていて、富岡には震災の年の11月から入って、建物が少しずつなくなっていくのを見てきました。やはり生まれ育ったところなので、ここを何とかしたいという気持ちが心の中にあったんです。そのような経緯や気持ちがあった中で、避難指示が解除され…。この建物はもともと同級生の歯科医院だったんですが、リノベーションしていこうということになったんです。ちょうど商工会で町の特産品を作ろうといろいろ話をしていた時で、福島市にいたときの知り合いが米粉を使ったバウムクーヘン店をやっていたので、それを商工会で提案してみたら、『いいんじゃない!?』という話になって…。試しに相談してみたところ、『作ってあげるよ!』と快く引き受けていただき、話がとんとん拍子に進んだんです。だけど、『では、誰がやるのか?』という話になり、地元で事業を再開してくれる人もいない、バウムクーヘン店をやっている人もいない…。結局は提案した自分がやるしかないという流れになりました」
- 諸橋
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「同じ物づくりでも、建築とバウムクーヘンでは全く違いますよね…」
- 遠藤
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「そうですね。ただ、バウムクーヘン作りに必要な機械はほぼ自動化されていて、未経験者でも扱えますよということで…。もともと物を作るのは好きだったので、そういう流れでバウムクーヘン店を始めることになってしまった感じです」
- 遠藤
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「震災後、最初にやったことは建物の被害がどんな状況になっているかを調査して役場に報告をすることでした。その後は消防団。消防の活動を続けながら川内村へ避難し…。川内村からその次は、うちの奥さんの出身地・埼玉県川越市の方に行って…。その後、福島県の新地町で住宅を地震に強く直したいということで、やってもらえないか?というお誘いがあり、それを機に福島に戻ってきました。しばらくの間、その対応をしていました。災害があると建物の全壊とか半壊の判定(住宅の被害認定調査)をするんですけれど、その判定をしてもらえないか?という相談が川内村からあって…。富岡町、楢葉町、浪江町、双葉町、大熊町と続けてずっと…。今もやっているんですけど、建物が各町でどんどんなくなっていくのを見てきたという感じですね…」
- 諸橋
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「遠藤さん自身、いつかは夜の森に戻りたいという気持ちがあったんですか?」
- 遠藤
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「そうですね…。震災後の2年間は本当に戻れないと思っていました。防護服を着てここに入ってくると、牛がいて、道路は牛の糞だらけで…。ちょっと行くと猪とか豚がいて…。これは本当に戻れないなって思いました」
- 諸橋
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「富岡町に戻ってきた後、商工会長になられたんですか?」
- 遠藤
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「はい。商工会長としては、商店の方々が事業を再開できるよう支援することが主な役割でした。商店を営んでいた人たちの人口が少なくなってしまい、どうしても再開できないということで…。その代わり、少しでも人を増やしていこうという気持ちで、建物を探している人とか、新しく建てたい方とか、あとはどんな形で何ができるかとか、そういう建築的なアドバイスをやってきました。商工会長だからというわけではないんですけれども、新しく来た人で商売がしたいという方がいると、いろいろ親身になって専門的なアドバイスで応援して、何とか人を増やそうと思って頑張ってきました」
遠藤家の家業が原点――丸太の記憶と重なるバウムクーヘン
もともとバウムクーヘンがお好きだったんでしょうか?
「実は、設計事務所を始めるよりも何よりも、私の祖父がここ夜の森に出てきて、炭や薪を東京に燃料として卸す商売を始めたんです。それがだんだんダメになってしまい、父が製材を始めたんです。だから杉の丸太がいつもうちにあったんです。なので、うちのみんなは丸太のようなバウムクーヘンが好きだったんです。年輪がやっぱりいいんですよね(笑)」
富岡町は、もともとお米が基幹産業でした。そのため、富岡のお米を使って美味しいものを作ろう、酒に続く町の名物を作ろうという話が出て、米粉のバウムクーヘンを提案。これはもうやるしかない!と話を進めていったそうです。
「夜の森地区の避難指示解除が見えてきた時に、やっぱり自分のふるさとに最初の点を打って、百年前の開拓者と同じように自分も開拓者になって、百年後の町誌には私の名前が載るかもしれないぐらいのつもりで始めたんです。機械でバウムクーヘンが自動でできると言っても、やはり微妙な工程もあるので…。でも本当に優秀な機械で、みんなで一か月間練習して何とかできるようになりました。ただ、プロデュースしてくれた方にできあがったバウムクーヘンを持って行ったんですけども辛口の評価で…。50点だね、なんて言われたんです(笑)。最近は、火の調節や焼き加減もだいぶ覚えてきたので、すごく美味しくできていると思っています」
富岡町内の農家さんが丹精込めて育てたお米を製粉し、工房で一本一本、丁寧にじっくりと焼き上げているため、香ばしく甘い香りが店内いっぱいに漂っています。
- 諸橋
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「この目の前にあるたくさんのバウムクーヘン!ご紹介いただいてもいいですか?」
- 遠藤
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「はい!まず、富岡の桜をイメージしたのはこの“さくらプリンス”。“さくらプリンス”という新種のお米を町で作っていて、そのお米を使っています」
米の新品種「さくらプリンス」を使用し、夜の森の桜をイメージしたYONOMORI BAUMならではのバウムクーヘン
- 諸橋
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「米粉は、ヘルシーなイメージがありますが…」
- 遠藤
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「そうですね!グルテンフリーなので、その辺がいいなと思います。玄米の状態で農家さんから買ってくるので、そのまま米粉にしましょう!ということで、玄米の米粉で作ったバウムクーヘンが“玄米ハード”。これが一番の人気商品です」
バターの風味が口いっぱいに広がりほんのり香るアーモンド、外はカリッと、中はもっちりとした食感
- 諸橋
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「これはイチゴですか?」
- 遠藤
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「隣の大熊町で作っているイチゴを使っています。ちょっと形の悪い規格外のイチゴをジャムのようにしてもらって、それを混ぜているんです。メレンゲに混ぜて焼くことで、食感も変えています」
福島県大熊町のイチゴを使用。生地にいちごピューレを練り込み、更にいちごピューレでコーティング
- 遠藤
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「そしてサツマイモ。南隣の楢葉町で作っているサツマイモを混ぜて作っています。これからの季節にぴったり!最高に美味しい一つです。お米は、町内産の“天のつぶ”を使っています。“天のつぶ”は本当に美味しいお米で、ちょうどお世話になった福島市のバウムクーヘン専門店も同じ“天のつぶ”を使っていたので、いろいろ教えてもらうにもちょうどよかったんです!」
夜の森地区の避難指示が解除された4ヶ月後。2023年8月にお店をオープンしてから2年が経ちました。今では、仙台や郡山など遠方からのお客さまも増え、「美味しかったからまた来た!」という声も届くようになったそうです。復興に関わる若者たちの来訪や移住もあり、バウムクーヘンをきっかけに人の流れが生まれています。
「まだまだ実際には大変なんですけど…。ただオープン当初からいろんな人が応援してくれていて、結構遠くからも買いに来てくれたり、少しずつ広がっている実感もあります。富岡の場合は人口が徐々に減ったのではなく、いっぺんに人が移動してしまったので…。人がいなくなった状態から、今戻っている感じで年々人が増えてきています。それと、ここを訪れてくれるいろんな人――勉強に来たり、復興状況を見に来たり、桜のシーズンには桜を見に来てくれる人がいっぱいいるんです。あとは、若い人たちで復興に携わりたいと言ってここに移住してくる人たちも増えています。逆に、そうした方々から『あれもやりたい』『これもやりたい』と声をかけられ、私自身もその熱意に引っ張られる形で、さまざまな取り組みに関わっています。そういう人たちの友達がバウムクーヘンを買いに来てくれたり…。そういう形でも本当に少しずつ人が戻ってきていると思います」
一歩一歩、着実に町のにぎわいを取り戻している――取材中もバウムクーヘンを買いにお店に訪れるお客様が何人もいらっしゃいました。
団らんの場から、住みたい町へ!
お店には団らんのスペースもあり、コーヒーや紅茶を飲みながらバウムクーヘンをいただくことができます。
「夜の森を行き交う人たちの交流の場として、行き交うというか、例えばサイクリングに来た人が自転車を止めて、ここに座ってバウムクーヘンを食べながらちょっと休んでもらって…。今は私たちスタッフと話をすることが多いんですけれど、できたらお客さんとお客さんとで話がはずんで…。一番いいのは、『ここいいところだよね』なんて話になって、また来てみたいとか、住んでみたいとか、そんな風になっていけばいいなと思っています」
購入・情報はこちら!
BAUM HOUSE YONOMORI(バウムハウスヨノモリ)のバウムクーヘンはオンラインショップから購入することができます。
BAUM HOUSE YONOMORI(バウムハウスヨノモリ)|福島県双葉郡富岡町 | 素材にこだわった米粉バウムクーヘン
PRESENT
諸橋さんが取材の感想として書いている言葉が応募キーワードです。動画をご覧いただき、番組ホームページのメールフォームからご応募ください。
本商品は、TOKYO FMで放送中の「Hand in Hand」内で応募プレゼントとして紹介されているものです。
本サイトからの応募はできませんので、希望される方はこちらよりご応募ください。
なお、応募締切は2025年11月7日(金)となります。
【動画はこちら】=LOVE諸橋沙夏が福島の復興&再生に取り組む人たちをリポート!さくらの町ににぎわいを取り戻す!地元産の米粉で作るバウムクーヘン
ラジオ放送情報
「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時11分に放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーや「Podcast」でお楽しみいただけます!
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