
福島県富岡町を流れる富岡川。太平洋へと続くこの川には、震災前は年1,000匹以上のサケが遡上していました。しかし、東日本大震災による津波でふ化場が流失してしまいました。さらに原発事故の影響で町全域が避難区域となり、長い間、稚魚の放流も行われませんでした。
2017年に町の大部分の避難指示が解除され、新しいふ化場が完成したのは4年前の2021年。富岡川漁業協同組合の猪狩弘道組合長は「サケが戻ってくると同じように、町民も一緒に戻ってくることを期待したい」と話し、伝統のサケ漁の復活を目指します。しかし、直面しているのは全国的なサケの不漁。一昨年は約22万匹、昨年は約70万匹の稚魚を放流しましたが、今年はどれくらいの稚魚を放流することができるのでしょうか?女性アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバーで、福島県いわき市出身の諸橋沙夏さんがリポートします。
2024年の水揚げはわずか13匹
2024年冬の富岡川。サケ漁を終えた漁協の組合員たちが、冷たい川の中で「やな場」の撤去作業をしていました。震災前は年1,000匹以上のサケが遡上してきた富岡川ですが、今シーズン水揚げされたサケは、わずか13匹だったと言います。近年、全国的なサケの不漁が続いており、富岡川も例外ではありませんでした。富岡川漁業協同組合・組合長の猪狩弘道さんはこう話します。
「北海道でも例年の70%ほどと聞いている。放流した稚魚が元の川に戻ってくる確率は0.2%から0.3%程度なんです。だから、できるだけ多くの稚魚を放流したいんですが、サケが捕れないことには稚魚を育てられないんです」

わずか13匹のサケしか水揚げできなかった現実に、さぞや落ち込んでいるんだろうと思ってしまいますが、意外にも猪狩さんも組合員たちも悲観的ではありませんでした。
「水揚げの数は少なかったけど、こうして震災前まで当たり前だったことを続けられることにまずは満足するべきだよな」と組合員たちが明るく話し、猪狩さんも「来年は仲間をいっぱい連れて帰って来いよってサケに電話すっぺ!」と冗談を飛ばしていました。
ふ化場の水槽で育てられるサケの卵
2025年1月。震災後に新しく建てられた「富岡川サケふ化場」を訪れた諸橋さんに、猪狩さんが見せてくれたのは、もうすぐ稚魚となってふ化するサケの卵でした。今シーズンはわずか13匹しか捕れず、「富岡産」と書かれた卵は7,500個ほどしかありませんでした。このほかに、山形県から取り寄せた4万個の卵が水槽の中で大事に育てられていました。
特別に手のひらに乗せてもらった諸橋さんは、その貴重な卵に「元気に生まれて、頑張って帰っておいでね~!」と声をかけました。5万匹にも満たない数ですが、今年は3月20日頃に放流を予定していると言います。

猪狩さんは優しい表情で卵を見つめ、「サケは稚魚で放流すると約4年かけて海で成長し、立派な姿になって自分のふるさとの川に戻ってくる。その姿はさながら自分の子どものようだね」と話し、富岡川に戻るサケを震災でバラバラになった町民と重ね合わせていました。
「やっぱり故郷を忘れないで子どもたちにも帰ってきてほしいなぁという思い。我々もそんな思いで放流しているんです」
富岡町への帰還を決めた「2つの理由」
2011年の震災で避難を余儀なくされた猪狩さん。避難指示区域の中にある自宅へ、何度か一時的な立ち入りを許されましたが、そこで目にしたのは荒れ果ててしまった我が家でした。野生動物が侵入した痕跡を見たとき、ふるさとへの帰還は難しいと思ったといいます。実際に、帰還をあきらめた町民も数多くいます。しかし、2017年に避難指示が解除されると、その年に町に戻った猪狩さん。帰還を決意したのには「2つの理由」があったそうです。
「1つは仲間だな。組合員の仲間たちが集まったときに“漁協を再開しよう”って話がバンバン出てきてね。同じ気持ちの仲間がいることを嬉しく思ったんです」
そして、2つ目は震災に負けずに富岡川に遡上してきたサケの姿でした。
「あの光景をもう一度復活させたい。そして、たくさんの人に富岡町のサケを味わってほしいね」

津波で流され行方不明になった元組合長の従兄の思いをつないでいく。原発事故の影響による漁の中断や全国的な不漁など、度重なる困難に直面しても、猪狩さんも組合員たちも前向きな姿勢を崩しませんでした。
「もう80歳を越えていますが、これまで積み重ねてきた経験や知恵を組合員のみなさんに伝えて、このふ化場と伝統のサケ漁を託せる人材を育成していきたいです。富岡川のサケ漁は町にとっては風物詩だからね」
今年は何匹のサケがふるさと富岡川に戻ってくるのか。猪狩さんは、まるでわが子の帰りを待つような表情でサケの帰りを待ち続けています。

PRESENT

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