Hand in Handreport.89

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2025.02.21

1000匹のサケ遡上に沸く富岡川を再び 漁協組合長・猪狩弘道さん

富岡川で猪狩弘道さんを紹介する諸橋沙夏さん

福島県浜通りにある富岡町。太平洋に面した温暖な気候と四季折々の風景が魅力の町で、桜の時期になると全国各地から観光客が訪れる夜の森地区の桜トンネルが有名です。2011年の東日本大震災と原発事故で、一時、町の全域が避難指示区域に指定されましたが、2017年以降、段階的に解除され、現在は町の面積の9割以上が居住可能となりました。

その富岡町の中心部を流れるのが「富岡川」です。太平洋からサケが遡上してくる川として知られ、サケ漁が盛んだった震災前は年1,000匹以上が水揚げされ、「鮭とば」や「鮭味噌漬け」などの加工品が町民たちに親しまれていました。しかし、避難指示が出されていた長い間、ほとんど稚魚を放流することができなかったため、遡上してくるサケの数が激減してしまいました。

今回の記事では、伝統のサケ漁の復活を目指す富岡川漁業協同組合の取り組みについて、女性アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバーで、福島県いわき市出身の諸橋沙夏さんがリポートします。

取材の様子は動画でも公開中!

津波で壊滅した「ふ化場」

諸橋さんが会いに行ったのは富岡川漁業協同組合・組合長の猪狩弘道さん(83)です。4年前の2021年9月に再建した新しい「サケふ化場」を案内してくれました。この場所は、遡上してきたサケから卵を採取してふ化させ、放流するための稚魚を育てる施設です。

富岡川サケふ化場の建物
富岡川サケふ化場

元々あった施設は、2011年の大津波で流されてしまい、復活までに10年以上の月日がかかりました。さらに、この場所では悲しい出来事がありました。猪狩さんは当時のことをこう振り返ります。

「毎年3月中旬ごろにサケの稚魚を放流していたのですが、大地震でふ化場の電源が止まってしまったため、当時の鮭繁殖漁業組合の組合長が放流前の稚魚を守ろうとふ化場に行ったんですよ。そして、津波に巻き込まれてしまいました。その当時の組合長というのは私の従兄だったんです。今も行方不明のままで、本当に尊い命を失った」

大津波は大事なサケの稚魚やふ化場だけではなく、当時の組合長の命をも奪ってしまったのです。さらに、富岡町は福島第一原子力発電所の事故によって町の全域が避難区域に指定され、全町民が避難を余儀なくされました。

ふ化場で猪狩さんの話を聞く諸橋さん

猪狩さんも町を離れざるを得ず、警察や消防による捜索活動でも行方不明になった従兄を見つけられずに、時間だけが過ぎていきました。そうした中、町への一時的な立ち入りが許されたある日、猪狩さんは富岡川で驚きの光景を目にします。

「橋の上から富岡川をのぞき込んだら、遡上するサケで真っ黒になっていた。震災に負けずに自分のふるさとに戻ってきたサケの姿を見たとき、一刻も早くふるさとに戻って復興させたいと思いました。私たち住民だけではなく、このサケの戻る場所をなくしてはいけないと思ったし、元気づけられたよね」

伝統のサケ漁復活への挑戦

町の大部分の避難指示が解除されたのは2017年でした。猪狩さんは避難指示解除とともに富岡町に戻り、遡上してくるサケを捕まえるための「やな場」の設置や稚魚を育てる「ふ化場」の復旧などに取り組み始めます。

実は猪狩さんは、富岡川でアユやイワナなどの淡水魚の漁を管理する漁協の組合長を務めていました。そこで、行方不明になった従兄が務めていた鮭繁殖漁業組合を吸収する形で漁協をまとめ、サケ漁の復活を目指すことになったのです。

「我々の組合は50人くらいと福島県でも2番目に小さな組合ですが、『町を復興させるぞ!』という組合員の絆はどこにも負けませんよ。サケが戻ってくるのと同じように、町民も一緒に戻ってくることを期待したいね」

富岡川漁業協同組合の組合員のみなさんの集合写真
組合員のみなさん

そして、震災から10年となる2021年。ようやく新しい「ふ化場」が完成し、11年ぶりにこの場所で育てた稚魚の放流が行われました。しかし、復興への思いとは裏腹に、新たな課題に直面することとなります。

サケのふ化事業は、遡上してきたサケの卵から稚魚を育てるのですが、富岡川に遡上してくるサケの数が激減していたのです。放流できる稚魚の数をそろえるため、県内外の他の漁協からサケの卵を譲り受けたり購入したりして補ってきましたが、近年は全国的にサケの不漁となっています。

富岡川の場合、サケの稚魚を放流して約4年後に元の川に戻って来ると言われています。そして、放流した稚魚が元の川に戻って来る割合は0.2%から0.3%程度と言われています。10万匹を放流しても戻って来るのは200~300匹の確率です。そのため、できるだけ多くの稚魚を放流することが重要で、サケの不漁は漁協にとっては死活問題なのです。

富岡川の畔で微笑む諸橋沙夏さんの写真

猪狩さんは「1匹のメスのお腹には約2,500~3,000の卵があるといわれているが、戻ってくるサケが少ないことにはどうしようもないんだよね。町外から仕入れたいが全国的な不漁のせいでなかなか手に入らないのも現実」と悩みを打ち明けてくれました。

今年の稚魚の放流は3月20日頃を予定していると言います。2023年は約22万匹、2024年は約70万匹の稚魚を放流しましたが、今年は一体どれぐらいの稚魚を放流することができるのでしょうか?後編では、富岡川漁業協同組合が大事に育てているサケの卵を特別に見せていただきました。

【動画はこちら】イコラブ諸橋沙夏さんが双葉・広野・富岡へ!復興へ取り組む福島の魅力をリポート

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時11分に放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
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