Hand in Handreport.87

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2025.01.24

「大飢饉も乗り越えた」米農家の8代目・木幡治さん 双葉で決意の畑作へ

ブロッコリーを手に持つ木幡治さんと諸橋沙夏さん

福島県浜通りのほぼ中央に位置する双葉町。この町は、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故によって、面積の96%が「帰還困難区域」に指定され、住民たちはふるさとを離れることを余儀なくされました。

避難指示が一部解除され、住民が帰還できるようになったのは、被災12市町村の中で最も遅い2022年8月で、実に震災から11年5か月が過ぎていました。この地で、先祖代々の土地を守ろうと、避難先から通いながら農業を再開した男性がいます。震災前は米農家だったという男性が育てているのは、ブロッコリーです。収穫したブロッコリーを手にし、「これは双葉町の希望の野菜」と話します。

今回、故郷の町で野菜づくりに取り組む男性の思いを、女性アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバーで、福島県いわき市出身の諸橋沙夏さんがリポートします。

取材の様子は動画でも公開中!

土地を守る…除染された農地での農業再開

諸橋さんが向かったのは双葉町役場から約1キロの場所に広がる農業地帯。出迎えてくれたのは、木幡治さん(74)です。訪れたのは12月初旬で、木幡さんが栽培しているブロッコリーが収穫期を迎えていました。

一面のブロッコリー畑の写真

実は、この場所は元々、畑ではなく水田が広がっていたといいます。木幡さんも野菜農家ではなく、米農家の8代目。1830年代に起こった「天保の飢饉」を乗り越えた家系として、米づくりの歴史を繋いできた一人でした。

「祖母から聞いた話では、天保の大飢饉のとき、この集落で生き残ったのは3軒だけ。そのうちの1軒が私の家だったそうです。本当に古い歴史を持つ土地だと思います」

震災後、この土地を離れざるを得なかった木幡さんですが、「土地を守り続ける」という使命感から、2022年に双葉町で農業を再開。震災前には栽培されていなかったブロッコリーの栽培に挑戦することを決意しました。

「先祖から受け継いだ土地を荒れたままにすることはできなかった」

米農家だった木幡さんにとって、水田に野菜を栽培することは、故郷の復興のために選ばざるを得なかった道でもありました。

双葉町の農業を変えるブロッコリー

転機となったのは、2021年に設立されたJAの子会社「株式会社JAアグリサポートふたば」の存在でした。この団体は、震災で被害を受けた浜通り地域での農業復興を目指す組織で、木幡さん自身も設立に関わっていました。そのJAアグリサポートふたばが、双葉町より早く避難指示が一部解除された浪江町で振興品目としてブロッコリー栽培を行っていて、木幡さんは「双葉町でもできる」と感じたのです。

2022年9月、地元JAの協力を得て約12,000株のブロッコリーの苗を植え、12月には少量ながらも初めての収穫・出荷を実現しました。原発事故後、双葉町で育てられた作物が市場に並ぶのは初めてのことでした。そのときのことを木幡さんはこう振り返ります。

「震災後、1年に1回は気になって農地を見に来ていたんですよね。荒れ果てていくこの土地を何とかしたいという気持ちはずっと持っていました。でも、避難指示区域だったので何もできなかった。それがようやく動き出したんです。本当にうれしかった」

ブロッコリーを収穫する木幡さん

木幡さんは現在、避難先のいわき市に生活拠点を置きながら、毎日1時間かけて双葉町まで通っています。

「双葉町に田んぼや畑を持っている人たちも、何とかしたいという気持ちがあるのですが、多くは避難先が遠くてどうしようもない状態なんです。私は近くに家を見つけられたのでラッキーでした。だから、この地での営農再開は私の使命のような感じもしていますし、私が先頭に立って双葉町の農業を引っ張りたいと思っています。このブロッコリーは、この町が復興するには欠かせない“希望の野菜”だと思っています」

担い手不足という課題

この日、諸橋さんは収穫期を迎えたブロッコリー畑に入り、木幡さんの指導のもとで収穫を体験させてもらいました。約1,000平方メートルでブロッコリーが栽培されていますが、広大な農業地帯のほんの一角でしかありません。栽培面積をさらに広げていくためには、大きな課題が残されています。

大きく育ったブロッコリーを持つ諸橋さん

「今年から福島市出身の方が双葉町でブロッコリーを作り始めましたが、なかなか後に続く人がいません。一番の課題はやはり担い手不足です」

2026年には、休耕地の基盤整備が予定されており、かつての田畑が新たな農地として再び活用される計画があります。木幡さんにとっては待ち望んでいた動きです。

「これが実現すれば双葉町の農業がさらに盛り上がると思う。私の姿を見て、もっと多くの人が農業を始めてくれることを期待しています」

意外にも、木幡さんはブロッコリー作りを始める前、あまり好きではなかったといいます。しかし今では毎日のように食べるほど。その味わいは年々甘みが増し、「希望の野菜」として確かな手応えを感じています。

次回の記事では、諸橋さんがブロッコリーを試食リポート。その味に迫ります。

【動画はこちら】イコラブ諸橋沙夏さんが双葉・広野・富岡へ!復興へ取り組む福島の魅力をリポート

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時11分に放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
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