
福島県の沿岸部にある浪江町に、2023年4月に国が設立した特別な法人があります。その名は「福島国際研究教育機構」です。Fukushima Institute for Research,Education and Innovationという英語名から、通称「F-REI(エフレイ)」と呼ばれています。英語での通称があるのは、この法人が国内だけではなく世界水準を目指して、ある取り組みを進めているからでもあります。
ちょっと難しそうな話ですが、今回の記事では福島県に住む人だけでなく私たち日本人にとってワクワクするような内容をお伝えします。F-REIとは一体どんな組織なのか、日本の「科学技術力」と「産業競争力」を世界トップレベルにしようと動き出したF-REIの山崎光悦理事長に、女性アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバーで福島県いわき市出身の諸橋沙夏さんがインタビューしました。
F-REIとは何?
- 諸橋
-
はじめに、福島国際研究教育機構(F-REI)がここ福島県に設立された目的について教えてください。
- 山崎
-
東日本大震災に伴う津波、地震、そして原子力事故という複合災害で多くの人々が浜通り地域から避難しました。そこで国は、この地域を復興の象徴とするために、創造的な復興拠点としてF-REIを設立しました。我々はこの地域に新しい町を築き、経済や社会の再生を支える旗印となることを目指しています。
- 諸橋
-
F-REIに課せられたミッションはどのようなものですか?
- 山崎
-
F-REIのミッションは大きく4つに分けられます。まず、「研究開発」が最も重要です。地域に根差した研究を進めることで、震災で失われたにぎわいを取り戻し、さらに活気ある地域づくりを目指します。次に「産業化」です。研究成果をもとに産業を創出し、地域の既存産業を振興させることに注力していきます。そして、次世代を担う「人材育成」をしっかりとしていくこと。震災から13年以上が経過し、その間に国や県だけでなく民間の研究開発拠点もこの浜通り地域に誕生しました。そうした地域の研究拠点を束ねて産業と連携できるよう「司令塔」としての役割も果たしていきたいと考えています。

具体的にどんな研究が行われているの?
- 諸橋
-
最も重要なのが「研究開発」とのことですが、具体的にはどんな研究開発が行われているんですか?
- 山崎
-
大きくは5つの研究分野に取り組んでいます。
1つ目は「ロボット」です。この分野では、過酷な環境で使用できるロボットやドローンの開発を進めています。たとえば、放射線に強いロボットや、風や熱に強いドローンなど、救助活動や災害時に役立つ技術を目指しています。
2つ目は「農林水産業」です。ここでは、農業や水産業の自動化、多収益化を目指し、作業の効率化を進めつつ収穫量を増やす技術の開発に取り組んでいます。
3つ目は「エネルギー」です。二酸化炭素排出を削減する技術や水素エネルギーの活用を進めています。水素はクリーンエネルギーの代表として注目されています。さらに、二酸化炭素を海藻に吸収させて海底に固定する「ブルーカーボン」という技術も研究しています。
4つ目は「放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用」です。放射線を用いた診断技術や治療法の研究が進んでおり、放射線科学が医療に与える貢献についても深く探求しています。
最後の5つ目は地域の再生と未来の街づくりのための「原子力災害に関するデータや知見の集積・発信」です。蓄積されたデータと科学技術の力を未来の街づくりにどう活用していくかを考え、福島県浜通りを日本中の人々が住みたくなるように再生していきたいと考えています。

野望は「ガンダム」をつくること?
- 諸橋
-
ロボットの研究はとても面白そうですよね。福島県は自然が豊かで、桃や常磐ものの魚など全国に誇る様々な農林水産物が出荷されていますが、農業機械のロボット化は実現できるんですか?
- 山崎
-
実は僕は現役の農家なんです。農家の人の悩みってすなわち私の悩みなので、何が大変なのかはよくわかっています。あれが自動化できたらいいなとか、これもできたらいいなとか色々な発想があって、ロボット開発を実現する絶好のチャンスだと思っています。なので、きっとみなさんがびっくりするようなロボットが作れると思っています。例えば、農業の分野ではスマート農業機械の開発が進んでいて、ロボットトラクターやロボットコンバインが活躍できる未来を思い描いています。これにより、農業従事者の負担を軽減し、次世代の担い手が不足している現状を改善することを目指します。また、ロボット技術は、過酷な環境での作業をサポートするための開発も進んでおり、例えば災害現場での救助活動を支援するロボットなどが考案されています。
農業だけでなく、林業も担い手の不足など同じような悩みを抱えています。儲からないから“林業ヤーメタ”ってなっている現状を変え、儲かる林業に向けてどうやって再生していくかということをみんなで考えています。ガンダムを思い出してください。ああいうロボットが勝手に山の中を歩いて木を切って帰ってくる。未来のおとぎ話が、おじいさんは山へ柴刈りにじゃなくて、ガンダムは山の木を切りにっていう風になればいいですね。

- 諸橋
-
ガンダムのようなロボットが現実に登場したらすごくワクワクしますね!ゲーム感覚で農作業ができたら楽しいですよね。
- 山崎
-
ゲーム感覚でやれたらいいし、楽しみがいっぱいありますね。人が操縦するだけにとどまらず、もっと自律感というか、ロボット自身が人の命令を総合的に判断してちゃんと仕事をして戻ってくるみたいなことを想定しています。ほかにも、過酷環境下で活動できるロボットの開発を始めています。今年、能登では大地震に見舞われ、さらに線状降水帯の発生で目を覆いたくなるような被害を受けました。そうした災害現場にロボットがいて、屋根をぐっと持ち上げて中で悲鳴を上げている人たちを救助するようなことができないかなと。阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの大きな災害が頻繁に発生していますが、そのたびに多くの人が犠牲になっています。本当に災害に強い国にするために、我々がそういう世界初となるようなロボットを作れないかなと考えています。
- 諸橋
-
エネルギー分野での研究についてもお聞かせください。
- 山崎
-
例えば現在、二酸化炭素を海藻に吸収させて海底に固定するという「ブルーカーボン」の研究が進んでいます。昆布やワカメなどの海藻を使って二酸化炭素を吸収し、その一部を食用にしながら、残りは海底に沈めるという技術です。これは50年、100年という単位で二酸化炭素を海底に貯蔵することを目指しており、その技術が進むと環境にやさしい社会につながると考えています。
次回の記事では、F-REIが目指す世界トップレベルの研究開発に向けた「人材」と「地域づくり」をテーマに、未来への更なる展望と福島への思いをお伝えします。
【動画はこちら】世界トップ水準の研究開発の実現を目指す研究機関「F-REI」をイコラブ諸橋沙夏さんが取材!
ラジオ放送情報
「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時11分に放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
※タイムフリーは、過去1週間以内に放送された番組を後から聴くことのできる機能です。