Hand in Handreport.75

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2024.07.19

大熊町の復興拠点に待望の灯! 「食事処 池田屋」が笑顔でお出迎え

食事処 池田屋の店主池田孝代さんといわき市出身の女性アイドルグループ「=LOVE」のメンバー諸橋沙夏さん

東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から14年目を迎え、福島第一原発がある福島県大熊町では、多くの課題を抱えながらも廃炉作業が進められています。その大熊町に2024年5月、ある飲食店が開店しました。

「都会にはない自然と空気のおいしさ。そして、少しでも海の近くにいたい」

大津波で全ての思い出を奪われた女性。それでも福島県の沿岸部に再び戻り飲食店をオープンした理由とは?いわき市出身の女性アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバー・諸橋沙夏さんが話を聞きました。


取材の様子は動画でも公開中!

特定復興再生拠点区域に待望の飲食店が誕生

「いらっしゃいませ~!」

店に入ると元気な声で出迎えてくれたのは、「食事処 池田屋」の店主・池田孝代さん(62)です。

広々とした店内にはテーブル席と座敷席を合わせて35席が並びます。メニューは生姜焼きや唐揚げといった定食を始め麺類なども充実していて、温かい食事を求めて昼時には、町内で復興関連の工事に従事している人などが次々に訪れます。お客さんに話を聞くと「大熊町にはあまり食事ができるお店がないので助かります」と口を揃えます。

食事処池田屋の店内の様子
「食事処 池田屋」の店内

現在も町の約半分の面積にあたるエリアが住民の立ち入りが制限される「帰還困難区域」に指定される大熊町。2022年6月に住民の居住が可能となる「特定復興再生拠点区域」として避難指示を解除し、大熊町の玄関口であるJR大野駅周辺で新たな町づくりの拠点となる産業交流施設や商業施設の建設を進めています。そのため多くの工事関係者が大熊町で働いていますが、「特定復興再生拠点区域」には食堂が一軒もなかったのです。そこへ今年5月に誕生したのが「食事処 池田屋」でした。復興に携わる多くの人たちにとって、まさに、待望の飲食店だったのです。しかも、夜は居酒屋としても営業しています。

「このあたりは街灯もないし、まだ家に人が住んでいないので夜は真っ暗です。そんな中で店を営業していると、“まぶしいぐらい輝いてるね”ってお客さんに言われるんです。夏になったらカブトムシが飛んでくるから、子どものために拾っておいてくださいってお願いされました」
屈託のない笑顔でそう話す池田さん。夜の営業は「防犯にも貢献している」と町役場の人からも喜ばれていると言います。

大熊町の玄関口であるJR大野駅の様子
JR大野駅

なぜ、大熊町で飲食店を?

池田さんは、大熊町に隣接する浪江町の出身です。結婚を機に29歳のときに夫と共に神奈川県に移り住みました。その後、長女の倫千代さん、長男の謙太さんが生まれましたが、47歳のときに夫が病気で他界。女手ひとつで子育てに追われることになりました。生活費と子どもたちの学費を稼ぐために豚丼の専門店を営み、必死で働いてきました。そして、子育てが一段落したときに心に芽生えたのが故郷への思いでした。

「浪江町請戸地区にあった家は、玄関を開ければ潮の香りがして2階からは海が見渡せる場所だった。もう一度、生まれ故郷の浪江町に戻ろうかなと考えていたんです」

そんな思いが芽生えたときに海が牙をむきました。東日本大震災です。
浪江町にあった家が大津波で流されてしまったのです。当時、自宅にいた両親とも連絡が取れなくなりましたが、2週間後に避難所にいるところを知り合いが発見し、無事だったことに安堵したといいます。しかし、思い出の品々は何一つ残りませんでした。さらに、実家のあった浪江町請戸地区は災害危険区域に指定され住むことができなくなりました。

「思い出がたくさん詰まった場所でしたが何もかも流されてしまいました。海もしばらくは見たくなかった。だけど、都会にはない魅力がたくさんあるんです。一番は自然よね。空気もおいしいし緑も多い。そして、悔しいけれど少しでも海の近くに住みたいと思った」

浪江町にはいまどんどん人が増えている。時間が経てば人が戻ってくるんだなと思ったと語る池田孝代さん
店主の池田孝代さん

実は、池田さんの兄が一足早く故郷に戻り浪江町で居酒屋を経営していました。浪江町の避難指示が解除されて第一号の店だったそうです。

「兄の店はとても繁盛しているの。私が食べに行こうと思っても、きょうは予約がいっぱいだからって断られるぐらい。浪江町も買い物もできない、街灯も少ない、イノシシがいっぱいだったのに、いまどんどん人が増えている。時間が経てば人が戻ってくるんだなと思った」

そして、“ある理由”から池田さんは浪江町の隣の大熊町で飲食店を開業することを決めました。その“ある理由”については、次回の記事で紹介します。

こうして大熊町で「食事処 池田屋」を開店した池田さん。店は長女の倫千代さん(32)、長男の謙太さん(27)と共に経営し、夜は真っ暗になるこの地で唯一の明かりを灯しています。

ランチで提供される美味しそうな生姜焼き定食の写真
ランチは定食メニューなどを提供

大熊町に移住する前の神奈川県での生活は、歩いて10分の場所にコンビニもスーパーも病院もある何一つ不自由のない暮らしでした。一方で、復興の道半ばの大熊町には大きな病院もスーパーなどの商業施設もありません。それでも池田さんは「今が一番充実している」と笑顔で話します。

「疲れても充実感があるし、お客さんに必要とされているというのが励みになる。顔なじみもできたし、若い女の人も増えてきているんです。引っ越してきて本当に良かった」

この町の素晴らしさをもっと多くの人に知って欲しい。そして、福島の復興のために働く人へ“食”を通して元気を届けたいというのが池田さんの思いです。その思いが大熊町の復興を後押ししていました。

次回は、池田さんがこの地で飲食店の開業を決断した理由に迫ります。

【動画はこちら】イコラブ諸橋沙夏さんが取材!相馬・大熊・浪江の復興ストーリー

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時11分に放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
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