Hand in Handreport.5

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2019.12.21

福島高校 スーパーサイエンス部のDシャトルプロジェクト!

全国各地の災害被災地の現状と、復興へ力を尽くす人たちの姿を通じて、防災減災の教訓を伝えていく、さらにその地域の魅力を伝え、復興の応援につなげていく復興応援プログラム「Hand in Hand」。

福島県立福島高等学校の正門の横で、左からウド鈴木さん、齊藤美緑さん、原尚志さん、天野ひろゆきさんが並び笑顔を浮かべている写真
左からキャイ〜ン ウド鈴木さん、福島県立福島高等学校卒業生 齊藤美緑さん、福島県立安積高等学校教諭 原尚志さん、キャイ〜ン 天野ひろゆきさん

今回は、お笑いコンビ・キャイ~ンの天野ひろゆきさんとウド鈴木さんが、福島県屈指の名門校・福島県立福島高等学校スーパーサイエンス部の放射線班が2014年から2018年の間に取り組んだ「Dシャトルプロジェクト」について取材した模様をレポートします。

いったいどんなプロジェクトだったのでしょうか?当時、スーパーサイエンス部放射線班で「Dシャトルプロジェクト」に取り組んでいた卒業生の齊藤(さいとう)美緑(みのり)さんと、美緑さんたちを指導していた原(はら) 尚志(たかし)先生(現・福島県立安積高等学校教諭)にお話を伺っています。

※「Dシャトルプロジェクト」は現在行われておりませんので、本取材・レポートに関する問い合わせは、復興庁(TEL03-6328-1111)までお願いいたします。



Q
天野さん:スーパーサイエンス部ってどうしてできたんですか?
A
原先生
福島高校がスーパーサイエンスハイスクール(*1)に指定されたことがきっかけです。それまでは、化学部、生物部、天文部、それからまさにサイエンスの科学部。この4つの部活動を全部一つにしてしまおうということでスーパーサイエンス部ができました。
Q
ウドさん:美緑さんは、なんでスーパーサイエンス部に入ったの?
A
齊藤さん
放射線というところに惹かれて。
Q
天野さん:それは東日本大震災の影響もあって?震災は何歳の時だったの?
A
齊藤さん
小学校6年生のときに経験しました。
Q
天野さん:震災の体験っていうのは、やっぱり非常に大きいものでしょう?
A
齊藤さん
そうですね。祖父母が大熊町という原発の近くの町に住んでいて、自分が生まれた病院も大熊町だったので。それもあって、放射線について知りたいと思い、自分で調べて、学んでみようという気持ちになったんです。
原尚志さんと斎藤美緑さんが並んでインタビューを受けている写真
Q
ウドさん:自分たちに放射線の影響がないかどうか、体を調べたりもしたの?
A
齊藤さん
そうですね。まず(中学生のときに)ガラスバッジ(*2)という、自分がどれだけ被ばくしているのか、数値として出してくれる機械を持ち歩くように(自治体から)言われました。
Q
ウドさん:自分で?個人的に持つの?
A
齊藤さん
そうです。支給されて1カ月ずっと持って学校通ったりしてくださいと言われました。
天野さん
胸ポケットに入れたりして、携帯するわけですね。
Q
ウドさん:放射線を測るガラスバッジというのは、他の生徒さんもみんな付けて、1カ月お過ごしになったんですか?
A
原先生
福島の子どもたちには全員に配られました。強制ではありませんでしたが、どのぐらい放射線を受けているのかがみんな心配だったので、ほとんどの子どもたちが持っていましたね。
Q
天野さん:いきなり測定器を配られて理解するのは、なかなか大変だったんじゃないですか?
A
齊藤さん
そうですね。返ってきた結果には「検出されませんでした」って書いてある。それぐらいの感覚でした。
原先生
実は、結果には「あなたの値はこのぐらいです」ということがちゃんと書かれていたんです。
Q
天野さん:もっと細かく?
A
原先生
そうです。少なくとも、福島の子たちはみんな同じぐらいの数値で、問題がないというふうに書いてありました。でも、他の地域、例えば東京とかはどうなのかって気になりますよね?
天野さん
東京はどうなのか、もっと遠い九州とか、他の子どもたちはどうなのかということも気になりますね。
原先生
そうですよね。そういう数値がないと、自分の値を評価できないですよね。
天野さん
はい、他と比べないと。
原先生
試験を受けて「あなたは50点でした」と言われても、平均点がとんでもなく低かったら、褒められているのかどうかもわかりませんよね。特に、線量の数値は、一生懸命に説明を聞いても見慣れない数字ですし。
Q
天野さん:そうか、難しくて分からないですね。だからこそ、美緑さんもそういう体験をしながら、放射線というのはどういうものなんだろうと興味持って、このスーパーサイエンス部に入ったという感じですかね?
A
齊藤さん
そうですね。
Q
天野さん:色々知って驚くようなことってありましたか?
A
齊藤さん
自然放射線というものがあって、岩石とか、御影石ですとか、ちょっと高めに放射線が出るものがあるんです。先ほどおっしゃったように、震災の前に自然放射線量がどれだけあったのか詳しく蓄積されたデータが無いから、震災後の値が出ても比較ができないんです。
天野さん
データが無かったんですね。
原先生
各地域の線量データはあったんですけど、ひとり一人の日常生活の中でどれだけ放射線を受けているかというデータはありませんでした。
教室で天野ひろゆきさんが手振りを交えながら発言し、隣でウド鈴木さんがその話に耳を傾けている様子
Q
天野さん:普通に生活しているときは、放射線のことをあまり気にしたくないというところはありますものね。そんな中で、じゃあその部活の中でプロジェクトみたいな、放射線をもっと考えていこうということになった訳ですか?
A
原先生
齊藤さんが入学してきたときにはすでに放射線班というのがあって、先輩たちが学校の放射線を測定して、線量マップを作ったりしていました。齊藤さんが入部してきたときにD シャトルプロジェクトが始まりました。
Q
ウドさん:D シャトルプロジェクトって何ですか?
A
原先生
福島県民がどれだけの放射線を受けているのかが話題になる中で、Dシャトル(*3)という個人線量計が開発されました。それまでの線量計と大きく違ったのは、一時間ごとにどれだけの線量を受けたのかを、きちんと記録しておいてくれる機能ができたことで、何月何日の何時にどの程度放射線を受けたのかがわかるようになったんです。その線量計を使って、福島高校だけでなく県内の他の学校、県外の学校、さらに海外にも送って、みんなで高校生の線量を測りました。それが「Dシャトルプロジェクト」です。
Q
天野さん:そうすることによって、先生が先ほどおっしゃっていた、福島だけのエリアの話だけじゃなくて、他の場所のデータも集まって、比較できるということになったということですね!結果はどうだったんですか?
A
齊藤さん
福島県内の高校生が、県外や海外の高校生に比べて線量が大して差がなかったんです。
天野さん
ほかの場所のデータがあって「差がない」と言われることと、自分たちだけの中で「安心」と言われるのでは、ずいぶん違いますよね。
齊藤さん
そうですね、実際自分が測定した結果なので、それで信用度は変わってきました。
天野さん
そりゃそうだ、数値だから。
個人線量の各校比較を示したボックスプロットの画像

(*4)「個人線量の各校比較」のグラフの読み方

福島県内、福島県外、フランス、ベラルーシ、ポーランドの測定地域を図示した資料の画像
出典:「「DShuttleProject」~福島県内外における高校生個人線量調査~」(福島県立福島高等学校スーパーサイエンス部 2年 安斎彩季  齊藤美緑  藤原祐哉 3年 小野寺悠  鈴木諒   木谷美思  鈴木幸太、2015年11月)
Q
ウドさん:海外はどの国にお願いして測ってもらったんですか?
A
原先生
海外はフランス3地域、ポーランド7地域、ベラルーシ2地域の12地域 計85名、国内あわせて総数216名の高校生に協力してもらいました。
測定に参加した参加校一覧の資料の画像
出典:「福島県内外の高校生個人線量比較2016」
(福島県立福島高等学校 原 尚志・熊谷りさ・佐々木絢奈・法井美空・鈴木太朗、2018年1月)より「2014年の調査結果概略」
(*5)パーセンタイル値
Q
天野さん:そういう海外との実際の交流みたいなものはあったんですか?
A
齊藤さん
ちょうど私のときは行けなかったんですけど、先輩がフランスに行って発表する機会がありました。
原先生
毎年、夏にはフランスの高校生が何人か福島に来ますし、3月には生徒たちをフランスに連れていくという形で、行ったり来たり交流していました。
Q
天野さん:活動していく中で、大変だった事はありますか?放射線ということでデリケートな問題でもあるから、「線量を測らせてください」ということだけでも「いいえ、知りたくない」と言う人もいるかも分からないですよね?
A
齊藤さん
言葉のニュアンスで印象って変わるので、そこがすごく難しいなあと思いました。地元の方とお話しする機会もあって、そうしたときには、変な事言っちゃいけないなと、ちゃんと伝わるか丁寧に丁寧に言葉を選びつつ。例えば、高校生に対しては「大して差がなかった」で伝わると思いますが、被災された方や被ばくを心配している方に話す時には「全然差はなかった」では伝わらない。相手の話を聞き、「そういうふうに考えているんだ」と一旦受け止めて、「私たちはこういうふうに考えています」と会話をすることで、受ける印象が変わり、データの見方も変わるんだと思いました。
今、大学で臨床検査技師になるために勉強をしているんですが、きっかけは、スーパーサイエンス部での活動の中で、放射線技師の方に協力をしていただいたり、教えてもらったりした機会があったから。そこから臨床検査技師になりたいと思ったんです。放射線技師、超音波技師など、具体的にどの道に進むかはまだ考えているところですが、いずれにしても検査を受ける患者さんと関わることになる職業になると思っています。不安な気持ちを抱える患者さんに寄り添うということ。また検査に来た患者さんに説明するという点では、スーパーサイエンス部の活動が絶対に活きていくと思っています。
天野さん
「この人が言うならそうだろう」というふうに思えるように、伝える側が重要なんだね。友達に伝えやすいというのは、その人のことを知っているからだもんね。
ウドさん
伝えること、思いやりですよね。自分だけ、今だけ良ければいいということじゃなくて、自分の周り、そしてこれからの世代の人たちに対しても、意識してつながっていくことが大切ですね。いろんなことを明確にして、そして安心して、それが大事。今日は、すごく有意義な話ができました!
天野さん
こういう皆さまがいると、日本も明るいなと思いますし、福島にもどんどん遊びに来たいと思っております。
原先生・齊藤さん
ありがとうございます!!!
キャイ~ン
今日は、どうもありがとうございました。
(*1)

スーパーサイエンスハイスクール:文部科学省が、将来の国際的な科学技術関係人材を育成するため、先進的な理数教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール」として指定し、学習指導要領によらないカリキュラムの開発・実践や課題研究の推進、観察・実験等を通じた体験的・問題解決的な学習等を支援する事業。

(*2)
個人積算線量計の一種であるガラスバッジの製品写真

ガラスバッジ:個人積算線量計の一種。受けた被ばく量(積算線量)を図る測定器で、測定器の中にあるガラスが受けた放射線の量を計る。

(*3)
個人積算線量計の一種であるDシャトルの製品写真

Dシャトル:個人積算線量計の一種。専用の読み取り装置を使うことで使用期間中の月別、日別、時間別の、自然放射線を含めた線量データを取得することが出来る。

(*4)
箱ひげ図について説明が書かれている資料の画像

「個人線量の各校比較」のグラフの読み方
出典:「DShuttleProject」~福島県内外における高校生個人線量調査~」(福島県立福島高等学校スーパーサイエンス部 2年 安斎彩季  齊藤美緑  藤原祐哉 3年 小野寺悠  鈴木諒   木谷美思  鈴木幸太、2016年3月)

(*5)
福島高校における放射線量のパーセンタイル値のグラフの画像

パーセンタイル値​
データを小さい順に並べたとき、ある数値がデータの小さいほうから見て何%の位置にあるかを示した数値のこと​

この取材を収録した「Hand in Hand」は12月21日TOKYO FMで放送されました。放送内容はhttp://www.tfm.co.jp/handでご覧になれます。

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は8地区(FM北海道/FM仙台/ふくしまFM/TOKYO FM/FM愛知/FM大阪/広島FM/FM福岡)で放送中。

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