復興庁職員と考える福島の復興 出前授業

出前授業とは

復興庁の職員が中高生に「福島の今」を伝える

出前授業の様子

東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年以上が経過した今、若い世代に震災の記憶と記録を受け継ぐことが急務となっています。

そこで復興庁では2022年度より、全国各地の中学校・高等学校へ復興庁の職員を派遣する「出前授業」を開始しました。授業では職員が講師として「震災の被害と復興」「福島第一原発について」「今も残されている課題」「なぜ震災を語り継ぐ必要があるのか」などを中高生に直接伝え、彼ら・彼女らの率直な反応に耳を傾けています。

3年目となる2024年度は、13都道府県14校の中学校・高等学校で出前授業を実施しています。また、出前授業実施後には各校から数名の生徒を福島に招き、現地を巡る視察ツアーを行いました。

このページでは、三重県の四日市市立富洲原中学校にて、中学3年生を対象に行われた出前授業の模様をダイジェストでお伝えします。

授業内容

01東日本大震災の概要

出前授業の様子 東日本大震災の概要

2011年3月11日14時46分、東北太平洋沿岸から約130km地点でマグニチュード9.0の地震が発生し、巨大な津波が引き起こされました。現在までに19,765人(災害関連死を含む)が亡くなり、2,553人が行方不明となっています(令和5年3月9日、総務省消防庁発表)。

この日授業を受けた生徒たちは、当時1歳もしくは2歳。復興庁職員が「みなさんが震災を知ったきっかけは?」と聞くと、ほとんどの生徒が「テレビ番組」と答えました。

最初に津波が陸地に到達したのは、地震発生からわずか15分後のこと。公式に観測された津波の最大の高さは9.3メートルでした。この津波で多くの犠牲者が出ただけでなく、東京都23区の約9割の面積に相当する561㎢が海水に浸されました。

巨大な津波は福島第一原発にも到達し、5つの原子炉建屋で電源が失われました。その後3つの原子炉建屋で水素爆発が発生し、福島県内の広い範囲で避難指示が出されました。

これらの被害の結果、多くの人々が長期の避難生活を余儀なくされました。家族が離れ離れになってしまった人や、ふるさとでの生活を失った人、不安から精神に不調をきたした人もたくさんいました。

02復興の現状

出前授業の様子 復興の現状

その後、除染作業や自然減衰が進み、福島県における空間中の放射線量は現在では大幅に低下しました。韓国のソウルやイギリスのロンドンなどと同等の数値に落ち着いています。

また、復興庁職員が「この四日市では、昨日(2024年11月13日)の測定値は0.045マイクロシーベルト/hでした」と伝えると、生徒たちは深く頷いていました。

これに伴って避難指示が解除される地域も増えていき、交通機関や学校、病院など生活に欠かせない設備も再建されました。
2024年7月時点では、福島県の県土に占める避難指示等区域の面積は約2.2%にまで縮小しています。

また、避難先から福島に戻ってきた方々の働く場を創り出し、地域における産業の復興を促進させるため、ロボットやドローンなどの新しい産業に関する企業を福島県浜通りに呼び込んだり、廃炉作業に向けた技術開発を開始し、国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」が進められています。さらに、福島県浜通りが創造的復興の中核拠点となることを目指し、「福島国際研究教育機構(F-REI)」が国によって設立されました。

03残された課題

出前授業の様子 残された課題

復興が進んでいる一方で、福島県にはいまだ約309㎢の帰還困難区域が残されていて、25,959人の方々が避難生活を送っています(2024年5月現在)。また、復興後の地域には住人の方々が戻ってきていますが、住民登録している人の数に対する居住者数の割合が10%を下回っている地域もあります。そのため、復興庁では避難先から地元に戻ることを希望する方を支援するとともに、移住希望者も募集しています。

福島第一原発の廃炉作業も引き続き進行中です。2023年からは、原子炉建屋内にある放射性物質を含む水を、安全基準を満たすまで浄化した「ALPS処理水」の海洋放出が始まりました。

また、福島県の除染で発生した土や廃棄物は県内の中間貯蔵施設で保管されていますが、2045年3月までに県外で最終処分を完了する予定です。

これを聞いた生徒から「福島県が完全に復興するまでにどれくらいの年月がかかるのですか?」という質問が出ると、復興庁職員は「今まで挙げた課題に加えて、県民の方々の心の問題もあるので『完全な復興』は存在しないかもしれません。ただ、福島第一原発の廃炉には何十年もの年月がかかるので、みなさんが大人になってからも続く見通しです」と答えると、生徒たちは驚きの表情を浮かべていました。

04震災を語り継ぐために

出前授業の様子 震災を語り継ぐために

東日本大震災では、多くの尊い命が失われ、甚大な被害が発生しました。地震大国である日本では、今後もいつどこで大きな地震や津波が発生するか分かりません。そのため、今後起きる震災においてできるだけ被害を減らすために、東日本大震災の記憶や経験を私たち一人ひとりが心に刻み、次の世代に伝えていくことが重要です。

東日本大震災の際も、過去の津波の被害が伝承されていた地域では「地震が起きたらすぐにできるだけ高いところへ逃げる」という教えが受け継がれていて、多くの地域住民が無事に避難できたと報告されています。

東日本大震災の被災地域には、「東日本大震災・原子力災害伝承館」や「3.11伝承ロード」など、被害の実情や教訓を後世に伝えるための施設が数多くあります。

また、復興庁では、テレビ、ラジオ、YouTube、イベントなど、さまざまなメディアや機会を活用して福島県の現状や復興に向けた取組を発信しています。復興庁職員は「復興庁のアカウントで投稿しているYouTubeアカウントには、大変人気を博してたくさんの方にご視聴いただいた動画があります。皆さんもぜひお家で見てくださいね」と生徒たちに呼びかけました。

グループワーク

出前授業の様子 グループワーク

講義を受けた後、生徒たちは「➀東日本大震災などのような大災害に対し、自分たちはどう行動すべきか」「➁福島を応援し、関心を持ってもらうには、どのような取組が必要か」「➂放射線の基礎知識や健康影響など正しく知ってもらうにはどのような取組が必要か」という3つのテーマについて、班ごとに話し合いました。

生徒たちはネット上で公開されている論文や公的なデータを参照しながら、「実際、自分たちは東日本大震災や福島のことをよく知らなかった。どうやって発信したら、若い世代にもっと知ってもらえそうかな?」「福島って桃やぶどうが名産なんだ。若い世代にはスイーツ、大人にはワインでアピールできそうだね」「このグラフを見せれば、放射線に詳しくない人にも一目でよく理解してもらえそうだよ」など、真剣に話し合って意見をまとめていきます。

出前授業の様子 グループワーク 発表の様子

班ごとの発表では、➀に対して「できるだけ早く避難できる経路を再確認する」「大災害への対応を自分ごととして捉える」などの意見が出ました。

➁に対しては、「駅や商業施設にポップアップストアを出店する」「WEB広告やCMなど、さまざまな世代の目に入る場所で情報発信する」といった提案がありました。

➂に対しては、「長い文章を読みたくない人にも理解してもらえるよう、SNSや動画で発信する」「福島産の食品に放射能に関する知識を記載したパンフレットを同封する」など、自由な発想の意見が出ました。

発表を聞いた復興庁職員は「みなさん課題について真摯に考えてくれましたね。自分たちでは思いつかなかったアイデアもありました。ありがとうございます」と称賛のコメントを贈りました。

復興庁職員からのメッセージ

お土産を食べながら家族とも話してみて

復興庁講師:末満参事官

復興庁講師:末満参事官

震災当時東北で働いていた上司は、【備えていたことしか、役には立たなかった。備えていただけでは、十分ではなかった。】とおっしゃっていました。防災において重要なのは、「日頃から災害時にどんなことが起きるか想定する」、そして「その上で訓練などを通してさまざまな対策の有効性を試してみる」ということです。過去に起きた震災の経験を若い世代のみなさんが学び、今後の災害対策に活かしてくれることを期待しています。

今日は生徒のみなさんに福島について学んでもらいましたが、被災地の現状をより多くの人に知ってもらうことが復興の支援につながります。福島で採れたおいしいりんごをおみやげに持ってきたので、ぜひ、ご家族と一緒に食べながら、今日のことを話してください。

生徒&先生にインタビュー

生徒代表「初めて知ることばかりで衝撃を受けました」

生徒代表

自分たちは震災当時の記憶がなく、今回の授業で聞いた情報は初めて知ることばかりでした。特に、今も地元に帰れない人がいることや、自分たちが生きている間に福島が元通りにならないかもしれないという話を聞いて、衝撃を受けました。

自分たちが住む三重県では、巨大な南海トラフ地震が起きる可能性があると言われていますし、近隣の福井県にも原子力発電所があるので、福島の被害は決して遠い話ではないと思います。

これからは、日頃の防災訓練により真剣に参加したいです。

担当教諭 松村さん「地域の人にも情報発信してほしい」

担当教諭 松村さん

復興支援の最前線にいる復興庁の職員の方と直接話せる機会は、生徒にとって非常に貴重な体験だったと思います。文字や映像から得る情報にはない、リアルな感触が得られたのではないかと感じました。

生徒達には、今日の授業で学んだことを今後の日常生活に取り入れつつ、3年間継続して取り組んできたSDGs研究にも生かしてほしいと思います。また、獲得した知識を自分たちの中に留めるだけではなく、家族や地域の人たちにも積極的に発信していってほしいです。

\ 授業を受けた生徒たちに感想を聞きました /実施学校

  • 2024年9月24日(火)

    秋田県秋田県立秋田高等学校

    秋田県立秋田高等学校

    参加生徒:3年生(32名)

    参加生徒の声

    震災を経験し、かつ当時の記憶が残っている世代としては自分たちが一番若い世代だと思う。今後震災を知らない世 代に震災のことを語り継いでいくのは自分たちだという自覚を持っていきたい。

  • 2024年9月26日(木)

    北海道札幌市立柏中学校

    札幌市立柏中学校

    参加生徒:1年生(140名)

    参加生徒の声

    私たちの生まれる前にこんなに大変な災害が起きて、たくさんの人が亡くなったということを、より実感した。福島の果物すごい美味しいと思ったのでもっと多くの人に知ってほしいと思った。

  • 2024年10月8日(火)

    福井県あわら市芦原中学校

    あわら市芦原中学校

    参加生徒:2年生(76名)

    参加生徒の声

    10年以上も前のことなのに、課題がまだたくさんあることがわかった。
    被災地を訪れたり、ネットで震災のことを調べたりすることが私にできることだと思った。

  • 2024年10月8日(火)

    大阪府大阪教育大学附属平野中学校

    大阪教育大学附属平野中学校

    参加生徒:2年生(70名)

    参加生徒の声

    地震などの大きな自然災害は、何年経っても終わりがあるものじゃなくて、人の心にも現場の状況にもその後の仕事や進路(水産物、就職)にも影響があるものなんだなと思った。

  • 2024年10月23日(水)

    山梨県山梨学院高等学校

    山梨学院高等学校

    参加生徒:2年生(40名)

    参加生徒の声

    これまでテレビやSNS、新聞等でなんとなく知っていたつもりですがいざ授業を受けてみると今まで知らなかったこと、解釈が違ったこと等が多数あり、正しい事実や現状を知ることができました。

  • 2024年10月24日(木)

    山梨県甲府市立甲府商業高等学校

    甲府市立甲府商業高等学校

    参加生徒:1年生(34名)

    参加生徒の声

    福島県にはまだまだ放射線による影響で入れない地域などがある現状、復興のために全力で頑張っている事を知り、福島県がどのくらい復興されているのか実際に行ってみたいと思いました。

  • 2024年11月7日(木)

    徳島県徳島県立吉野川高等学校

    徳島県立吉野川高等学校

    参加生徒:1年生(85名)

    参加生徒の声

    知らないで終わらすのではなくまずは知ることが1番大切だと思いました。もっと自分自身も知りたいし他の身の回りの人にもお伝えしたいと思いました。本日はありがとうございました。

  • 2024年11月13日(水)

    長野県長野日本大学高等学校

    長野日本大学高等学校

    参加生徒:2年生(39名)

    参加生徒の声

    今まで聞いたことのない話をたくさん聞くことができたし、正しい知識が自分の中でも増えた気がします。正しい知識を友達や家族にまず伝えて行けたらと思いました。

  • 2024年11月14日(木)

    三重県四日市市立富洲原中学校

    四日市市立富洲原中学校

    参加生徒:3年生(64名)

    参加生徒の声

    東日本大震災は自分たちには直接かかわりもなく、できることはないと思っていたけれど、グループワークのように周りの人に正しい情報を伝えることだけでも復興のために一歩近づけるかなと思いました。

  • 2024年11月15日(金)

    熊本県熊本県立東稜高等学校

    熊本県立東稜高等学校

    参加生徒:1・2年生(78名)

    参加生徒の声

    福島に行って見て回りたいとおもった。グループで意見を出し合う時間がもっとあればよかったと思う。今まで知らなかったことも知れて貴重な時間となりました。

  • 2024年11月18日(月)

    岡山県玉野市立玉野商工高等学校

    玉野市立玉野商工高等学校

    参加生徒:3年生(25名)

    参加生徒の声

    普段の授業ではあまり聞かないことまで教えていただいたのでとてもためになる講演会でした。初めて知ったことや今後の課題や今の自分たちにもできることがないか考えるきっかけになった。

  • 2024年11月19日(火)

    香川県大手前高松高等学校

    大手前高松高等学校

    参加生徒:2年生(229名)

    参加生徒の声

    震災から今までの間福島が歩んできた道を知ることが出来る貴重な機会でした。特に風評被害の話、福島の食べ物は厳しい検査を通過して売られているので安全だという事をしっかり覚えておきたいです。

  • 2024年11月29日(金)

    千葉県君津市立周西中学校

    君津市立周西中学校

    参加生徒:2年生(68名)

    参加生徒の声

    世界で4番目、日本でも類を見ないほどの地震だからこそ、語り継がなくてはならないし、覚えていなければならない。自分も何か出来ることをやっていきたいと思いました。

  • 2025年3月5日(水)・6日(木)

    東京都板橋区立志村第一中学校

    板橋区立志村第一中学校

    参加生徒:3年生(180名)

    参加生徒の声

    放射線に対して誤った知識をもっていたので今回の授業で正しい知識を身につけることができて良かった。グループワークも活発に行うことができたのでよかった。