岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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未来を語ろう製造業片野 圭二氏の想い※1 LIFE STOCK/製造から5年6カ月常温備蓄ができ、水・ガス・電気が無い環境でも摂取できる備蓄ゼリー。歯が弱いお年寄り、咀嚼力が十分でない子ども、胃ろうで栄養を摂取する人も、水分と栄養素を摂ることが可能。※2 マイクロアクチュエーター/精密機器などに用いられる小型の駆動装置。駆動源となるモーターと、モーターの回転数を上げて力を高める減速機で構成される。減速機は、複数の歯車により出力軸の回転速度を落とす仕組みになっている。(左)長さ135mm、重さ75gの「pipetty」。手作業による精度悪化を改善し、高精度な滴下作業をサポート (下)2020年1月には「第8回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞」を受賞東北には優れた加工技術がありますが、独自のものづくりはあと一歩というところ。マーケットニーズを集約したビジネスモデルを確立できれば、イノベーションが起こると信じています。ていきました。岩手には「岩手ネットワークシステム(INS)」という活発な産学連携システムがあり、大学との共同研究をしながら、ものづくりに挑むほかのベンチャー仲間が集まってくるという土壌もあり、環境として恵まれていました。島田 私も周囲の力を借りました。「LIFE STOCK」の長期保存を実現したのは、賞味期限をコントロールできる充填技術です。当社は、包装、充填、レシピコントロールにおいて世界随一の技術ブランドを保有していますが、こうした技術力は、宇宙食として親和性の高いJAXA(宇宙航空研究開発機構)との共創によって開発しました。松浦 南相馬市を拠点にして、災害発生時に社会実験を行いながら実装化を進めています。最近では、静岡県熱海市で起きた土石流災害で、上空から写真を数百枚撮影。データをオンラインの地理空間情報システムに落とし込むことで、防災科学技術研究所や内閣府とスピーディーに情報共有する取り組みを実施しました。事業開始当時、ものづくりをするために心掛けたことを教えてください。片野 私は元々、アルプス電気株式会社(現・アルプスアルパイン株式会社)の盛岡工場で、プリンタの製品開発に携わっていたんです。しかし、2002年に工場が閉鎖し、退職することに。かつての東北は、大手や首都圏の企業の下請けとして労働集約型の産業を担っていたのですが、海外の安い労働力の影響を受け、産業が空洞化したのだと痛感しました。そして、「これからの東北は、自分たちが新たに生み出した製品を発信していくビジネスにシフトしていかなければならない」と、技術によるイノベーションに挑戦したんです。松浦 私の場合、資金調達を始めたころは、製造業において基本となる、量産型の事業計画を作成していました。しかし、ベンチャーキャピタルの皆さんと話し合いを進めるうちに、それだけでは勝負ができないことを実感。無人航空機を製造・販売することよりも、災害に関する地図情報をリアルタイムで共有できる仕組みをつくることを重視するようになりました。商材を、製品から情報にシフトした形です。島田 製造や販売以外の付加価値を重く見ているのは私も同じです。プロデューサーとして活動していた私には、工場を持たずに製品を世に届ける「ファブレス」という考えが根底にありました。かつて技術と設備で世界を席巻した日本は、IT化やデジタル化を経て世界から遅れをとっています。今日の製造業で重要になるのは、未来の暮らしをデザインする“企画力”です。当社の場合、暮らしにおける防災という機能をアップデートしたいという思いがあり、ものづくりはその手段だと考えています。片野 そもそも、いきなり完成品を作ろうとすることにも無理があるように思います。私も最初、完成品を作ろうとして会社が傾きかけました……。まずは基盤技術となるマイクロ歯車という強みを磨き上げ、10年ほどしてようやく完成したのが「pipetty」です。他社には無い独自性を身につけることが最優先ですね。島田 「LIFE STOCK」も商品化までに8年かかりました。企画当初は不確定な計画でしたが、賛同してくれる皆さまのおかげで、歩み続けられたのだと思います。資金を調達し、収益を上げながら成長していくために、必要なことを教えてください。松浦 資金については、南相馬市に来てから3年ほどで調達しました。総額11億円の事業費のうち、8億円近くが99Keyword成長を追い求めるばかりでビジョンを失ってはならない東北発のイノベーションが世界に届く日を思い描いています

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