岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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未来を語ろう漁業・水産加工業※3 CoC認証/ASC・MSC認証の水産物を認証されたものとして扱うには、流通・加工・販売過程でのトレーサビリティを確保するため、加工場・小売店・飲食店等における「CoC認証」の取得が必要となる。※4 担い手育成事業/フィッシャーマン・ジャパンは、2015年から、未来のフィッシャーマンを育てる「TRITON PROJECT」を展開。石巻市、気仙沼市、宮城県など、地方自治体の担い手育成関連事業を受託し、行政との連携も進んでいる。被災直後は「東北の」という謳い文句に訴求力がありましたが、5年もたつと、そうした力は薄れてきています。問題意識を持つ漁業者ほど、そのことを感じているのではないでしょうか。(上)“新3K”のコンセプトに基づいた、スタイリッシュな飲食店「ふぃっしゃーまん亭」(仙台空港2F) (右)メニューには三陸の海の幸や、サステナブル・シーフードを使用長谷川さんは担い手の育成に力を入れているとか。長谷川 フィッシャーマン・ジャパンは、若い漁師たちだけでなく、外から来て漁師になりたいという若い人たちも対象に、担い手育成事業(※4)を行っています。若い子には、どうやって稼ぐかとか、漁協や市場との関係や仕組後藤 今増えているのは、漁師の家の息子や婿さんです。実は、私たちは漁業権をまったく新しくして、ポイント制を導入しました。いかだの所有に上限を設け、後継者がいる経営体の上限を高く設定して漁業権を配分し、若い人ほどたくさんいかだを持てるようにしたのです。若い人は意欲もあります。全体の人数は減っていますが、若い人の力が大きくて、売り上げが増えています。この10年、35の経営体がまったく減っていないのですが、この後、後継者がいなくて廃業する人が絶対に出てきます。そのとき引き継いでやってくれる人はほかから入れていかないと無理で、引き継げる人を確保できる仕組みを何とかしたいと思っています。長谷川 ぜひ、そのときはお手伝いさせてください。髙橋 漁協の組合員になるための条件が、新規就労の壁になっているという面もあるのではないでしょうか。長谷川 琢也氏の想いみもきちんと教え、自分たちのチャレンジが大先輩たちに認めてもらえるように、新しい提案や取り組みにもアンテナを張っていこうねと伝えています。この事業も、最初は受け入れ先を探すのに苦労しました。ところが、一つ良い事例が生まれると、「ああいう感じにすればいいのね」という具合に広がっていくんです。最初は「興味無い」と言っていたのに、今は3人も担い手を育ててくださっている親方漁師さんもいます。いったん受け入れると、「若い子が来たからがんばって売り上げを増やさないと」とか、逆に若い子が「親方に世話になりっ放しだから」とスーツを着て飲食店に営業回りしたり、とてもいい人間関係、ポジティブな効果が地域に生まれています。これまでの東北は、東日本大震災をきっかけにいろいろな人が立ち上がった10年でした。これからは、多様な人との関わりだったり、世界の流れを見つめることだったりと、さまざまなことをきっかけに漁業・水産業も変わっていくのだろうと思います。若い力が、東北のあちこちで芽吹き始めているのを実感しています。髙橋 山田湾のカキ部会の中でも、新しい動きが始まっています。一人の漁師さんが、殻付きのままカキを冷凍してシンガポールに輸出し始めました。まさに世界を視野に入れた挑戦です。ほかにも、販売チャネルのフィールドを変えてルートを開拓しようと仲間を集めたり、戸倉さんのやり方に学んで棚作りをしている漁師さんたちもいます。一つの組合としてまとまった動きにはなっていませんが、一人のチャレンジが、また別のチャレンジを生んでいるのでしょう。どんどん発展させていってほしいですね。後藤 将来にわたる食料の生産、確保を考えたとき、海に囲まれている日本が、海のポテンシャルを利活用しない選択肢はあり得ません。漁業・水産業は日本にとって重要な産業ですし、日本は「水産」を衰退させてはいけないのです。だからこそ、持続可能な漁業と担い手づくりに、この南三陸で少しでも貢献したいと思っています。97Keyword東日本大震災5年後くらいから「もう東北じゃない」って、よく言われます担い手育成事業が地域に良い影響を生んでいる

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