岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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未来を語ろう漁業・水産加工業髙橋 清隆氏の想い※1 アカモク/ワカメなどと同じ褐藻類の海藻。岩手県のカキ漁師にとっては厄介者だったが、秋田県では「ギバサ」と呼ばれ昔から食用とされていた。免疫力を強化するフコイダン、抗肥満効果のあるフコキサンチン、各種のミネラルなど、健康機能成分を多く含む。※2 ASC認証・MSC認証/「ASC認証」は、環境に大きな負荷をかけず労働者・地域社会にも配慮した、責任ある養殖水産物に対する国際的認証制度。「MSC認証」は、資源や環境に配慮し適切に管理された持続可能な漁業に対する国際的認証制度。(左)アカモクを湯通しした後、刻んでそのまま食べられる状態にして商品化 (下)パッケージは、女性客を意識したデザインにしている以前から、カキ漁師が少しでも豊かになり、浜が活気付くようになってほしいと思っていました。私がアカモク事業を始めた動機の一つでもあります。がる」と訴えたんです。若い人の1割くらいは「やってみたい」と言ってくれましたが、ほとんどの人は反対。そこを「1年だけ試してみましょう」という形でスタートさせました。1年ではまったく結果が出なくて、3年目くらいから売り上げが増え、5年目で被災前の水準を達成できました。1年で収穫できるようになった上に、不良品もほとんど出なくなり、生産性は3倍くらい上昇しています。髙橋 いかだの密集の解消は、被災前から考えていたのですか。後藤 過密養殖で生産量ばかり追いかけていたときは、どんどん品質が悪くなり、評価が下がり、売り先に困ることもありました。以前から何とか削減したいと思っていて、被災で100%何も無くなって、変えるとすれば最初で最後のチャンスだと思いました。長谷川 漁師の皆さんは、素晴らしいモチベーションで1次産業に取り組んでいらっしゃいます。狩猟民族的な感性というか、本能というか、「どれだけたくさん獲れるか」を求める気質があるように感じます。そうした漁師の世界で生産量の管理は、重要ですが難しいテーマです。北九州でもアカモクを盛んにやっていましたが、採りすぎて無くなってしまって。髙橋 西日本の漁師さんにアカモクを良い商品だから売れるとは限らず、どう売っていくのかも重要です。ここからは、いかに「稼ぐ」かという視点でご意見を伺っていきたいと思います。長谷川 日本の水産物の流通が素晴ら教えたのは、私なんです。アカモクを全国に広めていく手立てとして、アカモクをやりたいというところに無償でノウハウを提供していました。ほかにも、京都や愛知でお手伝いをしました。長谷川 資源管理についてもきちんと指導しておかないといけませんね。山田湾ではどうしているのですか。髙橋 創業当初から、カキ棚に付いているアカモクしか採ってはいけないというルールにしています。しすぎて、市場や仲買人、スーパーが勝手に売ってくれていた時代が長かったのかな、という印象があります。水産業関係者や漁師の皆さんも、もっとどう稼ぐのかを考えるべきです。その点、髙橋さんも後藤さんも、これまでやったことが無いことに挑んでいますよね。髙橋 商品を売るのにコツはありませんが、重要視したのは市場に出すときの“出口戦略”で、あとはトライ・アンド・エラーの繰り返しです。出口戦略は、マーケティングの要素を入れ、分析、研究しました。海藻は主に和食に使われる食材ですが、今、一般家庭の食事の6、7割が洋食系になっている中でどうやって入り込んでいくか。そこで、アカモクが知られていないことを逆手に取って、先に「洋食でも使えるよ」という商品イメージを広めていく作戦も進めました。後藤 養殖施設の削減には「持続可能な漁業を目指そう」という狙いもあって、その取り組みの中で日本で初めてASC認証を取得しました。当時は、認証基準が、養殖の環境を守っていくためのツールになると考えていました。日本初ですから、どういう効果があるのかよく分かりませんでしたが、ASCを取得したことで、特にセールスをしなくてもいろいろな企業やスーパーなどに優先して使ってもらっています。今はコロナ禍で消費が落ち込んでいますが、その中でも、販路の確保でASCが結構強い力を発揮してくれていると95Keywordカキ漁師の、プラスアルファの収入になればいいなと知られていないことを逆手に取った出口戦略

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