岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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遠藤 一美氏の想い持続可能な産業のための、収益という点についてはいかがお考えですか。針生 農業は日本全国どこに行っても同じ課題を抱えています。そんな中、福島や宮城は、東日本大震災を経たことでもう一度種を蒔き直さなくてはいけなかった。皆さんこの10年間、コツコツと逆境の中でいろいろと積み上げてきたと思うんです。オールリセットされた状況から、改めて花き栽培、お米、畜産、そういうものにどうやって付加価値をつけるのかが問われている。杉下 最近ですと、某芸能事務所の方のお悔やみ会合で使われたあたりから、「お悔やみにコチョウランを使いたい」というニーズも増えてきました。針生 素晴らしいですね。遠藤さんは、元々川内村役場にいらっしゃった立場から、付加価値についてどのように考えていらっしゃいますか。遠藤 まだワインの製品化には至っていないので、まずは全力でおいしいブドウの収穫に向けて栽培に取り組み、2022年の2月、3月から販売して、収入を上げていきます。また、次の代を見据えて人づくりをしていかなければならないとも考えており、地元の子どもたちに作業を手伝ってもらう取り組みもしています。舞台ファームさん、かつらお胡蝶蘭さんの先行事例も参考にしつつ、ほかの分野と連携できる部分など、さまざまな可能性を模索したいですね。川内村役場に勤務しているときに大規模な栽培施設も作られていますが、手県内外のワイン好きの方が訪れることで、村内の「いわなの郷」「かわうちの湯」「天山文庫」といった観光施設にも興味を持っていただくなど、さまざまな交流の輪が広がることを期待しています。(上)川内村西部、標高約750mにある高田島ヴィンヤード (右)タンクの中では、かわうちワインが初となる販売の日を心待ちにしている応えはありますか?遠藤 元々川内村は果樹関係の栽培がまったく無い状況だったのですが、ハウスの中で生食用のブドウ、シャインマスカットやあづましずくを作る栽培農家が40戸くらいに増えてきています。イチゴについては、ハウスの中で家族と一緒に収穫して食べられるような施設になっていて、お客さまも増えています。また、若い女性の働き場の確保にもなっており、そこも良かった点ですね。杉下 雇用に関しては大きな地域格差が相変わらず絶対的に存在しますよね。どんなに魅力的な仕事でも、「住環境がそろっていないから勤めることができない」という人も確実にいる。この現状はいち事業所レベルでは対応しきれないところもあるので、不動産関係の会社や行政のアプローチを含め、地域へのテコ入れも中長期的に考えていただかないといけないのかなと思います。人材についてはどうでしょうか。針生 どうしても「そのうちすごい社員が来るんじゃないか」と考えてしまいがちですが、それは現実的ではありません。若い人たちと共に勉強し、成長することが大事。デジタル化へ加速させるイメージと、一歩一歩時間をかけながらやっていくアナログなイメージ、この両輪のバランスが無いと厳しい。また自分の周囲だけでなく、多くの情報、成功事例を持っている方たちと気軽にコミュニケーションを取る。今はリモートで簡単にできますから、Zoomなどのツールを使って社員の育成や遠距離の農場をどう動かしていくか。柔軟にやることが大切です。杉下 私は先ほど「習慣」という言葉を使いました。雑誌の定期購読、いわゆるサブスクリプションのような商品の提供の仕方ができれば、安定感のある経営が可能になります。その後は固定客のパイを大きくしていく。そうしたファンに支えられるような流れを確保するには、地域産品の生産者同士がコラボしていくことも大事になってくる。例えば、かわうちワインさんは川内村の新たな魅力を発信できる商品で92ワインを通して交流の輪が広がることを期待していますどうやって付加価値をつけていけばいいのか固定客のパイを広げて安定的な経営を目指す

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