岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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未来を語ろう農業針生 信夫氏の想い(右)福島県浪江町南棚塩地区にある舞台ファームの農地 (下)舞台ファームが管理者を受託した、建設中のカントリーエレベーター浪江町の美しい水田を復活させるという前町長・馬場有さんの強い意志を受けて、地元に農業会社を作ることができました。復興のお手伝いをしながら、皆さんと共に歩んでいきます。なったのですが、「原子力災害からの、浪江町の水田の復興を成し遂げたい」という強い思いをお持ちでした。ただし地元の皆さまだけでは大変厳しい状況でしたから、仙台にいるわれわれに声がかかった。言ってみればよそ者です。地元の皆さんとはほとんど面識が無い中での作業でしたが、馬場町長の強い思いは吉田数博町長にも継承され、共に歩む中で、2019年の秋には福島舞台ファームを作ることができました。2020年に10年ぶりの収穫を行ったそうですが、浪江町全体ではどれくらいになったのでしょう?針生 浪江町全体の水稲でいえば、1年目のテスト栽培では約6ha。2020年は約23ha作れました。3年目の2021年としては170ha近く栽培できている状態です。年々拡大していますが、まだまだ水田全体でいえば10%ほどの面積が回復したという状況です。そんな中、コロナ禍でお米の価格が大暴落しています。針生 ここでしっかりと“売れる仕掛け”を考えないといけない。われわれがいつもお世話になっている(仙台の)アイリスオーヤマ株式会社という会社がございまして、大山健太郎会長がよく「なるほど家電®」というものを作っているのですね。元々あるようなものにユーザーが「なるほど!」と思える便利さを加えることで多くの支持を得る。われわれも単にお米を作るだけではなく、「なるほど」と思ってもらえるようなものを提供しなくてはいけない。例えばパックライスの成長は著しい。いずれご飯は電子レンジでチンをして食べるのが当たり前になり、炊飯器が無くなりかねない。そういった10年後の日本人のライフスタイルまで想像しながら、新しいニーズに対応することが大事です。現在、パックライスと製造部門を一体化したビジネスモデルも浪江町で進めております。遠藤 米の値段が下がる中、収入確保のために飼料米の栽培(作付面積)増に取り組んだ農家もいます。うちも3haほど米を作付けしておりまして、そのうち2.2haは飼料用米。ところがお盆前後の気象条件が悪くて、まったく収穫ができない厳しい状況です。舞台ファームさんのパックライスは、農業と併せることで収益性を向上できる非常にいい取り組みですね。針生 私は4年連続でセブン-イレブンのお米の顧問をやっております。そもそも農家の方は、値段をつける仕組みを分かっていないことが多い。需給のバランスではなく「ただ高く買ってもらえればそれでいい」とやってきた。つまり今は、この6年間、無理に高止まりさせてきたものが崩れている状態なんですね。世界で戦っていくためには、低コスト化を念頭に商売を設計しなければいけない。そう粛々とやってきたので、暴落したように見えても十分利益が出せているわけです。杉下 私も数年前にアイリスオーヤマの大山会長(当時社長)が塾長を務められていた人材育成塾のカリキュラムに参加する機会がありました。その場で業種を問わず、同じような事業者の方と肩を並べて学んで、今回の事業に取り組み始めた経緯があったので、非常にシンパシーを感じながら舞台ファームさんのお話を聞いておりました。針生 そうなんですね。杉下 風評で農産物が売れなくなったことから、作り手がどれだけ安心安全を謳っても、最終的に買う決断をするのは消費者だと考えました。そこで、農業よりも花の方がお買い求めいただきやすいのではないかと、コチョウランにたどりつきました。これから先の事業経営を考えると、皆さまの「習慣」になるような持続的な需要が生まれる状況が望ましい。コチョウランは明治中期以降、贈答用として定着してきました。高単価の上に年間このくらいは消費されるであろうという需要が元々見込めましたし、収益性の高い農業の実現に近づけたいと思います。花き栽培は避難区域の事業再開としては、大きな波ですよね。杉下 コチョウラン栽培が始まったというニュースが広まることで、「どんなコチョウランを育てているのだろう?」と実際に訪れるきっかけになったり、オンラインでつながったり。葛尾村にコンタクトする方が増えてくれるといいですね。また市町村の垣根を越えて、これからの福島を何とか盛り上げていこうというアプローチもとっています。91志半ばで亡くなった浪江町の馬場前町長の思いを引き継ぎます

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