岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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有限会社福島路ビールに700L程度だった生産量は、現在では約10倍の7,000Lに拡大。買い入れたモモも2t以上になり、農家との連携は深まっている。福島路ビールのもう一つの連携は、東北のクラフトビールのブルワリーと行っている「東北魂ビールプロジェクト」だ。いわて蔵ビール、秋田あくらビールと技術の研さん、情報交換を目的に2012年から始めた連携だったが、今では参加ブルワリーが20社を超え、東北のクラフトビールをアピールする連携にもなっている。福島路ビールでは「1社で発信するよりも、はるかに大きなアピール力があります」と、連携の効果に期待を寄せている。福島県福島市買い入れ高品質な農産物技術の研さん情報交換被災3県の連携事例②農家・企業×企業二つの連携で広がるクラフトビールの魅力連携図福島県の農家福島ならではの商品を開発福島路ビールフルーツビールが人気となり買い入れ量も拡大東北のブルワリー東北魂ビールプロジェクト同業複数社による効果的な情報発信現会社福島路ビールが、フルーツビ有ールを製造するきっかけになったのは、東日本大震災後に福島県産品の販売イベントで、たまたま隣でモモを売っていた農家から、「福島第一原子力発電所の事故による風評でモモが売れない。売れ残ったモモは廃棄せざるを得ない」と聞かされたことだった。同じように風評を受けた福島路ビールは、農家の支援と、新しい商品の開発のためにモモを買い入れ、フルーツビールの開発に乗り出した。「大人女子」をコンセプトにしたモモのビールは、30%が果汁でフルーツの味わいが強いのが特長。販売を始めた2012年福島県福島市郊外の丘陵で、2003年に創業したクラフトビールのブルワリー。創業当初はOEM生産が中心だったが、東日本大震災で生産依頼が減ったことを契機として、福島県の農家と連携して、地元のモモやリンゴを使ったフルーツビール、福島県産のコメや酵母を用いたビールなどを次々と開発・製造する。2012年から販売するモモのビールは女性を中心に好評を博し、看板商品へと成長。自社ブランドを確立したことで、OEM生産に依存していた経営体質からの脱却に成功した。 販路の開拓が1社では難しいように、プロモーションやブランド力の向上も、連携が力を発揮する。前述の食のみやぎ応援団が県内外で開催しているイベントなども、宮城の食のプロモーション、ブランド力向上につなげることを目的としたもの。 また、熊本県の黒川温泉は、かつては知る人ぞ知る秘境の温泉地だったが、「黒川温泉一旅館」という理念を掲げ、約30軒の旅館が連携してブランドの向上に取り組んだ結果、現在では、海外からも客が来る著名温泉地の一つになっており、熊本地震の被害も乗り越えてきた。 「黒川温泉一旅館」とは、温泉地全体を一つの宿に見立て、通りは廊下、旅館は客室、周辺の木々や花は中庭の植木と考えて、共に繁栄を目指すというもの。入湯手形による28カ所から選べる露天風呂巡りや、景観の維持・整備などの施策を行ってきた。 食のみやぎ応援団や黒川温泉の試みを、1社で行っても効果は限定的。業界や地域がまとまって活動することが大切といえる。 社会的な課題の解決に、官民連携などで取り組む際のポイントには、地域のニーズを正しく把握することや、説明を尽くして理解や合意を得ることなどが挙げられる。つまり地域や住民と連携して、味方につけることが重要ということだ。もちろん、地域や消費者のニーズをつかむ必要は、官民連携だけに限らない。 宮城県多賀城市に本社を置く株式会社ワンテーブルの製品も、被災地の住民の切実なニーズに応えている。「LIFE STOCK」と名づけられた製品は、電気やガス、水が無くても食べられるゼリー食品。約5年間の保存が可能な防災用備蓄食品だ。東日本大震災で、水が不足していた避難所での生活を経験し、水が無くても食べられる栄養のあるものへの住民のニーズが高いことをくみ取って開発された。 コロナ禍によって、消費者の行動や嗜好が変化を余儀なくされる中で、よりきめ細かなマーケティングが必要になることは間違いないだろう。 連携に参加する企業には、当事者意識が求められるが、取り組みを牽引す88連携が力を発揮するブランド力の向上社会的課題の解決に地域や住民との連携を最後の決め手になるのはバイタリティーや熱意

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