岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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被災3県で見る連携による地域産業活性化 醸株式会社醸カモシー岩手県陸前高田市カモシー7社が連携まちづくりを協議補助金申請出店・整備に協力整備・運営に協力EV(電気自動車)を整備買い物商業施設CAMOCY被災3県の連携事例①企業×企業「発酵」を核にした連携が新しい価値を生む連携図地元事業者陸前高田市地域内での循環交流人口の増加地域住民観光客前高田市の今泉地区は、古くからしょ陸うゆや味噌、日本酒といった発酵食品の製造を行っていた地域だった。しかし、東日本大震災の津波で製造工場は壊滅し、事業者もほとんどが地区を去ってしまった。今泉地区の再生と雇用の創出を検討する中で、地域にとってなじみの深い「発酵」をベースにしたまちづくりを行うことが提案され、7社が連携して株式会社醸を設立し、商業施設「CAMOCY」を運営することになった。CAMOCYに出店している企業には、江戸時代から酒造りや、しょうゆ、味噌の製造を行ってきた株式会社八木澤商店もあれば、オーガニックチョコレートを製造・販売しているロッツ株式会社のように、本業は薬局やデイサービスセンターなどの運営という企業もある。パン屋のオーナーは自動車教習所の会長だ。八木澤商店代表取締役の河野通洋氏は「さまざまな事業者が参加することで、強みが合わさって新しい価値が生まれるし、弱みを補い合うこともできる」と連携の働きを語り、後継者や事業承継といった問題も、連携することによって対応できるとしている。CAMOCYは、コロナ禍でのオープンにもかかわらず、予想を上回る多くの来場者があり、「発酵」というテーマは地域に受け入れられているようだ。岩手県陸前高田市の地元事業者7社が連携して2019年に設立したまちづくり会社。陸前高田市今泉地区に、発酵をテーマとした商業施設「陸前高田 発酵パーク CAMOCY」を整備し、2020年12月に開業。同施設の運営を行う。地域密着の戦略を打ち出し、CAMOCYを軸に、市内のほかの商業施設や道の駅などへと連携を広げ、地域全体で観光客を迎え入れる体制の実現に向けて、市や地域の中小企業と連携しながら、取り組みを進めている。発酵をテーマに、地域経済の循環、雇用の確保を実現することが、取り組みの目標だ。り組むとしている。 このように、理念をしっかりと掲げ、将来の目標も明らかにすることで、ブレずに取り組めることは明らかだ。 宮城県気仙沼市の造船業は、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた。造船業の将来に強い危機感を覚えた造船に関連する事業者が集まって、造船施設の集約や新しい設備の整備などの検討を開始する。そして、2015年に誕生したのが、4つの造船所などが合併した株式会社みらい造船だ。 東日本大震災まではライバル関係だった造船所が、一転して共同で受注することになったわけで、関係者が抱いた危機感、地域の基幹産業を守りたいという思いとともに、ライバル関係を乗り越えて協働するという強い意志も感じることができる。 被災後の連携の中には、ライバル関係を克服できずに、中途半端な連携になって失敗した例もある。同業者間の連携には、大きな目的のために、利害関係を越えて協力するという覚悟が求められる。 農業や漁業に関連した事業、また、製造業などの連携でよく聞く声に、「よいものをつくっているのに、なぜか売れない」というのがある。製品の品質には自信があるだけに、連携すれば売れるに違いないという思い込みがあり、それが外れたときのショックは、より大きいものになるのだろう。 たしかに農業や漁業、製造業の関係者は、つくることに関してはプロかもしれないが、売ることに関してはどうだろうか。連携の取り組みにも経営の観点が必要で、販売に関する専門家などを加えて、優れた製品をきちんと売り、収益を出すというビジネスモデルをつくることが、成功のポイントの一つといえる。 また、ビジネスモデルの作成に当たって留意したいのは、「餅は餅屋」ということ。例えば、建設関連の事業者などが連携して、居酒屋などの飲食事業の経営に乗り出すというケースがある。しかし、こうした異分野への挑戦は、残念ながら失敗に終わったものが少なくない。本業の調子が悪いので、とりあえず新しい分野に挑戦するという意識では、さらに成功の確率が下がる。 本来の事業領域から離れないところで連携することが大切で、気仙沼のみらい造船のように、本業での連携が望ましい姿だろう。87ライバル関係を越えて協働して危機に挑む製造から販売までのビジネスモデルが重要

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