岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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年に向けてR2Nでファン獲得し販路拡大岩手県大■町店主(当時)小川貢一氏を講師として招き、勉強した。「地元の人に腹を割って付き合ってもらえるようになったのが、その後を考えると重要でした」と振り返る。明確なターゲットを設定して完成させた付加価値ある特産品を都市部へ発信商品開発も着々と進めていった。大槌で冬になると各家庭で作られている郷土食・新巻き鮭を都会の人が好むような食感、味のものに変えることを思い付き、「鮭の冷燻製」の製造に着手。燻製本のレシピ通りに試作するところから始め、各工程の意味をそしゃくしながらノウハウを積み重ね、かつて割烹に足しげく通って磨いた自らの舌を基準に、味を決めていった。冷燻のための装置は自作。大槌イノベでの試作をもとに、手間をかけずに持続的に煙を発生させ、冷却する構造の装置をわずか数万円の材料費で完成させた。ターゲットに据えたのは性別年齢を問わず、都市部のお酒好きなインテリ層。その狙いがピタリとはまり、都内の催事で関心を集め、リピーターもつき始めている。地元の資源で商品展開を進め、現在は養殖鮭3種類、天然鮭1種類と貝類4種類でサイズ違いも含め30種類を超えるラインアップを展開。「いわてふるさと納税事業者アワード」審査員特別賞受賞など、第三者機関からの評価も高まってきている。今後さらに販路を広げ、持続するにはネット販売が重要だと考えているが、「知名度の無い企業の新しい製品は容易には消費者まで届かない」と新谷氏は冷静に分析。催事などリアルな場で対面販売を行い、消費者にストーリーや商品の良さをじかに伝えてファンを獲得し、ネット経由で購入してもらうR2N(Real to Net)の流れを構築中だ。構築に当たり、被災地域企業新事業ハンズオン支援事業を活用。ホームページとヤフーショッピングの自社ショップを刷新し、LINEも導入した。売り上げ全体に占めるネット販売は2割程度だが、ヤフーショッピングが大きく伸びており、成果が表れている。「町が発展するためには地産地消ではなく地産『都』消が必要」と新谷氏。「付加価値の高いものを作り、地元で買う人は少なくても、都会では売れる。そういう成功事例を示し、地域の意識を変えていきたい」と先を見据える。地域の余材を活用し商品化地産「都」消の成功例で意識改革新谷氏(右)とスタッフの皆さん。一つ一つ手作業により、燻製専門店の味を生み出す積極的に催事へ出店して商品をPRし、インターネットを活用して消費者とのつながりをつくり、ファンを獲得してリピート購入につなげるR2Nを構築。今後も力を入れ、売り上げ全体に占めるネット販売の割合を上げる。大槌近海で始まった鮭・マスの養殖事業を受けて生産される余材を使った、新しい商品「大槌トラウトサーモン冷燻製」を開発した。ほかにもムール貝や赤皿貝など、地域であまり使われていない資源を活用し、大槌の名を冠した商品として全国、世界に展開する。付加価値の高いものを作り、販売を人任せにせず戦略を立てて自分たちで行う。それによって、今まで実現不可能だと思われていた地産「都」消のビジネスモデルが可能であることを地域の人たちに示し、意識を変えていきたい。そのためには成果を出していくことが重要である。◆地域住民との関係づくり大槌町における事業であることを重要視し、地元の人々とフランクに、深く付き合うため、料理教室を開くなど交流を重ねた。結果、「ここに来ると安心する」と新谷氏が思うに至るほどの強固な関係性が築かれた。◆低価格で業務用冷燻装置を開発持続的に煙を発生させ、冷却する構造の冷燻装置を自ら設計し、数万円で完成させた。ほかの団体が建造した装置と比べ、およそ200分の1の費用に抑えた。◆高付加価値路線でターゲットを設定小さい会社で利益を出す構造にするために高付加価値路線を選択。都会で暮らし可処分所得が高く、お酒好きで商品の背景に興味を示すようなインテリ層をターゲットに据え、ぴったりと当てはまる顧客を獲得。8128成果とポイント新商品の開発新規事業の開始新規のブランド立ち上げ2030

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