岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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岩手県釜石市◆BtoC事業への転換と体制強化被災前から取り組み一定の成果を得ていた通販事業の可能性を信じ、事業の主軸に据えることを決断。ピッキングのアウトソーシングや顧客管理システム導入など、顧客増加を想定して対応できる体制を整えた。年に向けて在庫ロスを削減し廃棄ゼロを目指す総工費5億円の本社建設プロジェクト顧客対応を効率化し、人材育成を図る(下)津波によって全壊した大槌工場は再建され、2016年に稼働を開始した (右)7種類の魚料理を組み合わせた人気商品「大漁セット」在庫ロスを減らすため在庫商品を賞味期限ごとに分類し、月次の営業計画を立てている。廃棄ゼロを目標に、規格外の商品はウェブで販売。水揚げが安定せず市場には出回らない全国各地のマイナーな水産物を商社から買い取り、味付けを工夫して限定商品として販売する。既存の工場を維持修復しながら再建してきたために工程上非効率な部分があり、出荷量の拡大に対応しきれていない。動線の効率化や各工程のスペース拡大などで生産性と安全性を高め、さらなる顧客増に対応する。復興の公共工事が一段落して人材確保が可能になってきたことから、育成にも力を入れていく。ウェブサイトをリニューアルし、これまで電話主体だったカスタマーサービスをネットにシフト。顧客の利便性を高めるとともにコールセンターの負担軽減を図り、労働環境も改善する。◆財務管理とマーケティングの強化外部専門家を交えて財務管理を見直し、費用対効果を割り出して広告戦略を強化。順調に新規顧客を増やすとともに、BtoBでも新たな取引先が生まれ始めた。◆顧客データに基づくサービス向上蓄積される顧客データを基に、ニーズに応じた新商品の開発、新たな販売機会の創出、カスタマーサービス強化を実施。季節商品のパンフレット送付などで、過去に頒布会を利用していた顧客への訴求も図る。が消費者に評価されたから、だけではない。いくつもの改良、改善、改革の成果だ。その一つは商品の平準化。当時、頒布会の商品は多少のカスタマイズが可能となっていた。それがネックでカスタマー対応やピッキング業務に負担がかかっていたが、イレギュラー対応を取りやめることで効率化し、最終的にはピッキングをアウトソーシングできた。もう一つは顧客管理システムの改善。「恥ずかしながら、以前は社員が表計算ソフトで管理し、気付いたときにはファイルが増えていました」と小野氏は笑う。多額の予算を投じ、顧客が「10万人、20万人になっても対応できる」システムを構築した。体制は整った。あとは顧客を増やすのみ。外部専門家を交え財務管理の見直しとマーケティングに取り組んだ。すると、広告費を獲得顧客数で割った1件当たりの広告コストが東日本大震災前の約6割まで下がっていることが判明。ここが攻め時と、広告の量を一気に増やし、テレビCMも展開。思わぬ効果で、機内食や通販向けなどBtoBの取引先も増えた。新型コロナウイルスの影響による巣ごもり需要もあり、2020年度は売り上げ、利益とも過去最大となった。それでも小野氏は「これがいつまでも続くわけではない」と、継続顧客へのサービス強化や、過去に頒布会を利用していた既存顧客の掘り起こしに注力。顧客データを分析し、ニーズに合わせた新商品や定期便以外の販売機会を創出する。2021年度中にはウェブサイトをリニューアルし利便性を高めるとともに、新規顧客の獲得とコールセンターの負担軽減を図る。「東北にはいいものを作っている中小企業がたくさんあります。その商品の価値をしっかりと訴えて共感してもらい、ファンを増やしていくことで、地域をもっとハッピーにしていくことができるのではないでしょうか」。これからも熱い思いと機を見るに敏な経営で、水産加工業の水先案内人を務める。7927成果とポイント新規事業の開始作業効率・生産性向上事業内容の発信・PR2030

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