岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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岩手県大船渡市年に向けて口コミ評価は徐々に向上し、温泉総選挙2019で絶景部門第3位、2020で同2位を獲得するに至る。コロナ後の需要爆発を見込み準備万端利益を出し、社会に貢献し、長く続ける企業の使命として「利益を出すこと」「社会に貢献すること」「長く続けること」を挙げる志田氏。開業5年目の2019年4月決算で最終利益を計上した。従業員の地元雇用、地元の間伐材を使う薪ボイラー導入、地場の魚介や野菜を使った料理の提供、売り先のない水産物の活用、子どもたちの社会見学の受け入れなど、地域への社会貢献も果たしている。「長く続けること」の方策として、2019年には復興庁クラウドファンディング支援事業の一つ、「大船渡温泉応援ファンド」の募集をソニー銀行株式会社を通じて行い、3,400万円の資金調達に成功する。繕隆氏の勧めを受け「何事も経験」という思いで始めた志田氏だったが、その結果で大船渡温泉のファンが想像以上に多いことを知り、重みと責任を感じたという。「出資者にはちゃんと配当で返さないと駄目だなって」。アフターコロナの需要増加を見越し、準備も進めている。その一つがアプリ開発。大手旅行予約サイト経由が多数を占める宿泊予約を自社サイトから直接行ってもらうことで、利益率向上と利用客のメリットを両方実現したい考えだ。一連の取り組みについて語った後、「まるで俺が中心になってやっているみたいだけど、地元のみんなが協力してくれたからやってこれたのよ」と志田氏。先に挙げた温泉の混雑に加え、地元雇用の婦人らが接客に不慣れで口コミの低評価が相次いだころも「まだ1、2年生だから仕方ない。今日より明日はもっと良くなる」と前を向き続けた。「7年たったので、やっと小学校を卒業して中学生になったくらい」と笑う。新型コロナウイルス感染拡大の影響を最も受ける業種の一つである宿泊業は、今なお苦境に立たされているが、「ここがどん底。これから良くなるしかない。楽しみで仕方ない」と、前向きな姿勢はまったく変わらない。地域の人を助け、地域の人に助けられながら、利益を出し、社会貢献し、それを長く続けていく。それが企業の使命だと自らに言い聞かせて。アプリを活用し利益率向上アフターコロナの消費爆発に備える銭湯の料金で温泉を、の思いはまだ地場の魚介や野菜を使った料理が好評。奥は名物マグロのカマの煮付け大手旅行予約サイト経由の宿泊予約の手数料、加えてカード決済による手数料がかかり低水準な利益率を向上させるため、2021年度中にアプリをリリース予定。自社サイトから直接予約してもらうことで、自社と利用客の両方にメリットが生まれる仕組みを構築。新型コロナウイルスにより宿泊業は大打撃を受けているが、国内外で行動自粛により蓄えを増やしている層は確実にあり、コロナ収束後の消費爆発が予期される。今はそれに備える時期で、志田氏いわく「駄目だ駄目だと泣いている暇なんか無い」。準備すべきことを着々と行う。被災した人たちのためにと始めた大船渡温泉は宿泊客向けに進路変更したが、地域の人が銭湯の料金で気軽に入れる温泉を作りたいという思いは今もある。同じ三陸で、眺めの良い場所に日帰り温泉施設を作りたいと考えており、具体的な候補地もある。◆口コミ評価向上利用客の声を受けてサービス改善を重ね、ネットでの情報発信を強化すると、口コミ評価が向上。「温泉総選挙」2019年度絶景部門3位、2020年度同2位を獲得。◆人材を含めた地域資源の活用従業員の地元雇用、地元の間伐材を使った薪ボイラー導入、地場の食材を使った料理など、人材を含めた地域資源活用により、企業の使命と考える社会貢献を果たしている。◆サステナブル経営を意識水揚げ後に廃棄される魚介を漁師から仕入れて料理に。宿泊客の食べ残しは処理して堆肥に。生産者にも宿泊客にも、地球にも配慮したサステナブル経営を実践する。7525成果とポイント新規事業の開始事業内容の発信・PR2030

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