岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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年に向けて取引先・協業先を増やしていく宮城県東松島市の経営する施設の草刈りであったり、清掃であったり。「徐々にではありますが、コストへの感覚が磨かれてきて、無駄をせずにいいものを生み出そうという機運が社内全体で高まってきました」と渡部氏は笑みを浮かべる。高い技術力を存分に生かし新商品・コラボ商品に活路見いだす「高砂」のみそは、一般的な仙台みそと違い、米こうじと大豆こうじの両方を用いる。「大豆こうじで『ダブルこうじ』することでうまみ、甘み、そしてコクが増します」(後藤氏)。「高砂はいわば仙台みその『スーパープレミアム』ですね」(渡部氏)。2つのこうじを使うことで当然手間はかかり、管理にもより慎重さが求められる。「扱いを間違うと生産できないという事態にまで陥るわけですから、そのノウハウと技術はほかにはまねできないと思います」と渡部氏は胸を張る。今、東松島長寿味噌は「顧客が喜ぶものを作る」ことに徹底して取り組んでいる。「『東松島長寿味噌は顧客のOEM先である』というマインドで生産に従事することを徹底しました」と渡部氏。ブランドだけに頼らず、現代の細分化したニーズに応えようというムードが、社員の間で着実に広まっている。消費者ヒアリングを数百人規模で行い、商品開発につなげた一例が、かつお節、さば節、昆布、シイタケを使った合わせだしの「長寿だし」。「いわば京風になりますが、このレシピも古くから高砂にあったものです。高砂には多くの宝が埋まっています」(渡部氏)。新製品開発を進める一方、他社とも積極的にコラボレートを行う。「きゅうりのキューちゃん」で知られる東海漬物株式会社と共同で商品化した「おうち旅・仙台南蛮味噌漬」もその一つ。「しょうゆ味のキューちゃんにみそを使う発想は、初めは頭にありませんでした。でも、仙台らしさを出そうとトライしてみたところ、キューちゃんとうちのみその特長が融合したすごくいい商品ができました」(渡部氏)。経営に自分の考えが直結するかもしれないと、社員からもアイデアがどんどんと寄せられている。「企業が将来にわたって続いていくためには社員の成長が欠かせません。今、当社は好循環に入ってきていると思います」。今後さらに少量多品種生産を徹底し、取引先の数を拡大する方針だ。求められる商品ラインアップを確立強い経営基盤づくりにまい進中央が東海漬物とのコラボから生まれた「おうち旅・仙台南蛮味噌漬」少量多品種生産を究極まで推進していく考え。細やかさとフットワークの軽さを武器に、全国の競合他社と戦っていく。さまざまな縁を大事に、誠実な製品作りに努める。その最たる例が東海漬物との共同開発品「おうち旅・仙台南蛮味噌漬」である。2019年1月に事業停止した宮城県大河原町の「玉松味噌醤油」の定番商品を継承。2020年12月には商品を発売し、宮城県の県南地区で玉松ブランドファンを喜ばせた。自社に何ができるのかを精査し、求められる商品ラインアップの構築を進める。今、10年後を見据えることはなかなか難しいが、企業として当面は土台づくりの時期であることははっきりしている。「人間でいえばどんどん体力をつけていく少年期から青年期」。将来の困難にも対応できるように、今のうちに強い経営基盤を徹底してつくる。◆工場長も帳簿とにらめっこ製造することだけではなく、工場長自ら帳簿を毎日付けることで、会社の状況もより正確に把握でき、生産部門が何をするべきか、解決すべき問題点が明確になった。◆高い技術を改めて内外に示す元々あった高い技術を昇華させ、2019年に「こいくちしょうゆ長寿醤油」で農林水産大臣賞を受賞。火入れやボトリングのタイミングに徹底してこだわり、快挙につなげた。◆消費者視点に立った商品開発を推進現代の多様なニーズに応えるべく、商品開発を行うにあたって、自分たちは「顧客のOEM先である」という意識を徹底的に浸透させた。その結果、いいアイデアが集まり、ヒット商品が生まれ始めた。6520成果とポイント新商品の開発作業効率・生産性向上事業内容の発信・PR2030

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