岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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監修委員座談会日本女子大学 家政学部 家政経済学科 准教授一般財団法人ダイバーシティ研究所代表理事新型コロナウイルスの影響や相次ぐ自然災害によってさまざまな問題が顕在化し、多くの企業が苦境に立たされています。そんな中でも東北では、次のステージに向けて歩み始めた企業も目立ってきました。被災を乗り越えることから生まれた、新しい発想、先進的な取り組み、そして再生への強い信念は、東北だけでなく日本の次の10年を考えるヒントになるはずです。ここでは本事例集の監修委員4名に集まっていただき、本誌で取り上げた優れた事例の解説を交えながら、東北と日本の目指すべき未来を語っていただきました。製造業は、依頼のあった仕事だけをするのではなく、戦略的な発想や新規事業が、これからは求められます。 一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。商学博士。生活者の視点を大切にしながら、地域経済の持続のダイナミズムとジェンダー・ダイバーシティ・マネジメントの2つの領域の研究に取り組む。平成26年度新産業集積創出基盤構築支援事業「地域産業活性化研究会」委員(経済産業省、2014年10月~2015年2月)。兵庫県伊丹市生まれ。2007年1月からダイバーシティ研究所代表として、CSRにおけるダイバーシティ戦略に携わる。東日本大震災後は「被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト(つなプロ)」を発足。2012年2月より復興庁上席政策調査官となり、2014年4月からは復興推進参与としても東北復興に携わる。ざまな業種と年代の人が地域に入って地元の人々と交流し、互いに影響を与え合いながら地域産業の復興に取り組んでいらしたことです。これを学問的な言葉で表現すると「周縁と中央の相互作用」といいますが、そこから復興を進めるさまざまなアイデアが生まれてきました。柳井 私は30事例から4つのことに気付きました。1つ目は、福島県に技術的に進んだ企業が登場していること。福島第一原子力発電所の事故による汚染地域の除染で活用した技術や経験を、GISやロボットなどに生かしている企業です。2つ目は、経営の多角化が進んでいること。消費者の声を聞きながらビジネスモデルを変えている例がありました。3つ目が、経営判断が早く、小回りの利く企業が現れていること。要望に素早く応えて、先行者利益を獲得しています。最後は課題で、中小企業ほど、デジタル化に対するノウハウや人などが不足し苦戦していることです。5額田 春華氏(ぬかだ・はるか)田村 太郎氏(たむら・たろう)額田 今回の30事例からも、持続可能な復興には、新しい発想の取り組みと、先端的な経験の積み重ねが必要なのだと理解できました。私はこういった取り組みの中で、信念を持ってゴールを目指す企業が生まれていることに感銘を受けています。例えば、松浦社長(株式会社テラ・ラボ)は、イノベーションの創出と災害復興への貢献の両立を掲げて活動されていますし、小林社長(株式会社陽と人)は、生産地の常識と都会の消費者の価値観や情報との間のギャップ解消を目標にしていらっしゃいます。もう1点付け加えておきたいのは、復興支援活動を通じて、被災地外からさま田村 社会的課題の解決にこそ、事業の可能性やマーケットがあると捉えると、弓削さんの言う防災産業の分野に対するニーズは高まっているといえそうです。柳井 目標の置き方によって、企業活動は変わってきますね。その点では、ほかの地域から被災地に進出した起業家には、バックキャスティング的な考え方をするケースが目立ちます。バックキャスティングとは、未来のあるべき姿から解決策を見つける思考方法で、未来を基点にして、事業を進める中で軌道修正していくわけです。一方で地元の企業や人に多いのは、フォアキャスティング。データに基づいて手堅く事業を進めるタ気付きと発見と感銘30事例が与えてくれたもの被災地に進出した企業に求められるものとは

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