岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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福島県相馬市時代に対応する勇気と行動力が大事経営理念こそが判断と行動の基準家族、社会に誇れる仕事をしていく(左)シラス・コウナゴの加工品を製造する尾浜工場 (右)被災前からの海苔製品に、新事業により生まれた「北のしらす」や「海苔でサンド」が加わった海苔の水揚げと国内人口の減少が続き、今後の事業環境は大きく変わる。「こうすれば大丈夫」という解は無く、スピーディーに時代に対応できる勇気と行動力を備えた強い組織であることが大事だと考える。2030年と区切ること無く、その先の未来にあっても、「健康で安全な自然食品を提供し、社員の幸福と社会の繁栄を目指し、地域社会に貢献する」という経営理念が、判断と行動の基準となる。その前提に立ち、事業の拡大、多角的な経営の中でもやることとやらないことを吟味し、「利益の質の向上」を目指していく。価値判断の指標として「家族や社会に誇れる仕事か?」という点を重視したい。「やらされている仕事」の中から良い商品は生まれない。仕事の意味を理解し、誇りを持って取り組むことが商品の質を向上させ、会社を一つにまとめていくのではないかと考えている。◆地元産シラス・コウナゴの加工品を発売自社としては初となる地元産の小魚の商品化事業に挑戦し、①自社の事業拡大と雇用維持、②地元漁業者と地域経済復興への貢献を、共に実現した。◆さらなる事業拡大で地元雇用を創出 尾浜工場の新設後も、2017年に新地工場(新地町)、2018年に第二工場(南相馬市)と亘理工場(宮城県亘理町)、2021年に浪江工場(浪江町)の操業を開始。「事業拡大を通じた復興への貢献」の経営を続けている。◆国際認証「FSSC22000」を取得 食品安全管理で最も厳格な国際規格「FSSC22000」の認証を取得。これにより、大手企業との取り引きで審査が免除されるなど、信頼性の向上にとどまらず実際的なメリットも生まれている。本化されている。最短で1時間くらいで出荷できるという。新商品の発売を控え、一郎氏は米国留学中の長男、立谷甲一氏に「新しい事業を手伝ってほしい」と頼んだ。甲一氏は米国での就職を考えていたが、同年春、相馬に戻りサンエイ海苔に入社。こうしてスタートしたシラス・コウナゴの加工事業は、わずか3年で売り上げの25%を占めるまでに成長した。社長室長に就任し新事業を牽引する甲一氏は、その後もスナック感覚で食べられる「海苔でサンド」など新商品の開発に努めてきたが、常に課題としてあったのが風評対策だった。甲一氏は「他社にまねのできない企業文化を根付かせることが安全を生み出す」と考え、従業員教育と工場管理に継続して取り組んだ。その成果として、最も権威ある食品安全管理の国際規格「FSSC22000」の認証を3つの工場で、「FSSC22000サポート工場認証」を2つの工場で取得するに至った。これにより高い信ぴょう性を持った製品の安全性アピールを行うことができるようになったが、甲一氏は「風評はすぐに無くなるものではない。とにかく、安心してもらえる日まで良い商品を作り続けていくこと。その長期的な結果が、お客さまの安心につながる」と語る。この10年、サンエイ海苔は、積極的な事業拡大と息の長い安全性向上の取り組みを両輪として、復興の歩みを進めてきた。その過程では、約100人の従業員(うち2割が1980年から始めた障害者雇用の従業員)の一部をグループ会社のホテルに一時出向させるなど手を尽くし、1人も解雇することがなかった。さらに、2018年には30人を新規採用。2020年来のコロナ禍では、稼働率の低下に苦しむホテルの従業員をサンエイ海苔が一時受け入れ、雇用の面からも地域社会への貢献を果たしている。相馬では、漁獲高も上がらず厳しい状況が続いている。しかし、「福島の海の復興、相馬の復興に当事者として携われることは、大変やりがいのあるものだ」と、甲一氏は語っている。474成果とポイント年に向けて新商品の開発新規事業の開始作業効率・生産性向上2030

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