岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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福島県川俣町量の負担は大きくなったかもしれないが、仕事があることの喜びを誰よりも痛感している渡辺氏にとっては忙しさもありがたいことと思えたようだ。工夫を凝らした新工場完成で懸念されていた雇用問題も解決へ受注は安定したが、雇用という難題にはしばらく頭を悩ませたという。川俣町は県庁所在地の福島市と隣接するため、町の若年層は環境の整う福島市で働く傾向が強い。一方、町外の人たちには、福島市内から車で30分という立地に、「遠い」と敬遠されてしまう。そのため、ハローワークに求人を出しても応募ゼロが続いたという。そこで機械科のある川俣高等学校に工場の体験プログラムを提供し、卒業生の受け皿となる企業であることをアピール。町のものづくりを周知しながら雇用につなげようとした。また、より良い労働環境を提供するために、新工場の設立も決める。福島市との境に近い場所を選び、アクセスの利便性も強調し、建物の色も赤にするなど、周囲から目立つようにした。社員の働きやすさにも重点を置いた。旧工場は建て増しの影響で部門が建物ごとに分かれていたが、ワンフロアに多くの機械を配置して他部門の作業が見られるレイアウトにしたことで、社員同士の意識向上につながった。さらに「社員が一緒に食事ができるように」と食堂も兼ねて休憩スペースを設け、コミュニケーションの充実も図っている。建設時期は東京オリンピック開催に伴い、鉄骨やボルトが不足していたが、木造建築に切り替えることで、その問題を解決。2020年1月に完成した新工場は、創意工夫が光る建物になっている。そんな努力が実を結び、2021年4月には2人の新人が入社。今では社員数は20人となり、東日本大震災前を上回っている。事業面でも3次元測定器の導入などで効率化を図り、今後は医療機器や通信機器分野への参入も考えているという。そんな中、娘で常務取締役の伊達里美氏が会社を引き継ぐことも決定。「あとは若い人たちが、この町のものづくりを守っていってもらいたい」と渡辺氏。父の意志を継ぐ伊達氏も「常に前を見て進んできた社長の思いを絶やさぬようにがんばりたい」と意気込みを語った。新工場は加工機械を集約し、社員同士が他工程の作業状況を把握できるようになったコロナ禍で状況は厳しいが、医療機器や通信機器などの新分野への参入拡大や新規開拓を発展の方向性と見定め、風評を克服した技術力によって、停滞する地域経済の復活をけん引する企業を目指していく。川俣町のものづくりを守っていくために、町の同業3社で新しい団体設立へ向けて動いている。農家や大工の人にも協力を得て、展示会やものづくり体験などのイベントを実施。子どもたちにその魅力を伝え、この町で住み続けたいと考えられるような環境づくりにも力を入れている。◆ものづくりの町をアピール地元の公立高校には機械科があり、指導する教諭に向けた機械製造業のノウハウを知ってもらうプログラムを提供し、生徒たちへの授業に役立ててもらった。◆新工場で雇用確保と生産性向上を実現新工場は福島市からのアクセスの良い場所を選び、アクセスの利便性をアピール。さらに、社員が働きやすいように、ワンフロアに加工機械を集約。休憩スペースを設置して、コミュニケーションをスムーズに取れるようにした。社員同士が他工程の作業状況を把握できるようになり、良い競争意識が生まれているという。◆新たな生産方法の確立3次元測定器を導入するなどの設備投資を行い、検査の精度を高め、いち早い納品ができる体制をつくった。大手企業からの厳しい要求に応えられる企業となることで、さらなる販路拡大を目指す。良品質でも安価という流れを変えたい日本のものづくりは無くならないといわれているが、海外への受注が増えている現状もある。また、安さを求められることが続いている中で、品質の検査は厳しくなるばかり。このままだと機械加工分野の発展は無い。それを見据えた対策も考える必要がある。地域経済の復活をけん引する町の雇用を守っていく432成果とポイント年に向けて作業効率・生産性向上人材育成事業内容の発信・PR2030

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