岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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福島県浪江町◆10年ぶりに浪江町で酒造り2021年2月に浪江町での酒造りを再開。被災前に使っていた原料のうるち米は酒専用のものだったが、飯米に切り替え、町の農業の安全性もPRしている。年に向けて日本酒以外の他品目も開発抑草効果がある酒かすで農地を改良郷土の魅力を発信(左)浪江町で造られた「磐城壽 錨揚げ」と「磐城壽 貴醸泡酒」(上)2020年8月に開業した「道の駅なみえ」内に酒蔵を構える新ブランドの開発も行う中、甘酒やリキュールなどの製造にも着手。酒かすを使った大豆の菓子製造も行っている。商品を手掛ける人たちの思いも購入者に知ってもらいたいという狙いがあり、情報発信にも力を入れている。酒かすを米作りに役立てられないかと考え、取引先の農家とさまざまな実験を行った。すると、酒かすを混ぜた農地には雑草が生えにくいことが判明。抑草剤として使用した場合、農地面積で200~300haもの効果をえられるという。現在、浪江町の契約農家でも試験的に肥料の一部としている。現在、浪江町は水素など再生可能エネルギー産業を中心に新しい雇用を生み出そうとしている。そんな中でも、江戸時代から続く老舗酒造として、町の食文化を中心に歴史のデータベースを作成し、継承したいと考えている。◆山形県で酒造りを再開一時廃業も頭をよぎった。しかし、多くの取引先の助けがあり、また「磐城壽を製造し続ければ故郷への恩返しになる」と考え再開を決意。山形県長井市の酒蔵を買い取り、酒造りを始めた。その際に西日本の酒蔵を数多く回ったことで理想の酒造りとも出合えた。◆被災後4カ月で商品を販売2011年7月に、被災した酒蔵の中ではいち早く販売を再開。「浪江町の人が喜んでくれたことで、事業継続への意欲が再び湧いてきた」と振り返る。いが届く。悪い話ではないと思い、大阪府の酒蔵予定地を訪れたが、市街地に位置していたことがネックになったため、断りを入れた。「これまで米と水に強いこだわりを持ってきただけに、市街地での酒造りがイメージできませんでした」。その後、知人に自動車を借りて大阪府から福岡県北九州市門司区まで、酒蔵巡りを行う。「東日本大震災の2カ月前にある研究機関に預けていた酵母が残っていることが分かったんです。自分が思い描いた酒造りができるか、多くの酒蔵を回って確かめようと思いました」。最後に訪れた兵庫県神戸市で、理想としていた少人数、小ロットで多品種対応の製造を可能にしていた酒蔵にたどり着いた。時を同じくして、山形県長井市にある老舗酒蔵を買い取って酒造りを再開しないかという話が持ち上がる。「山形県での事業再開は家族で大げんかになるくらい、もめました」。水が命の酒造りを他県で始めたら、やっぱり福島県は駄目だと言われかねない。一方、磐城壽を製造し続ければ故郷への恩返しになる。迷いに迷った末、「いつか浪江町で酒造りをするためにも、ここでやる意味がある」と再出発を決断した。その後、山形県の老舗酒蔵の株式を買い取り、「株式会社鈴木酒造店長井蔵」として本格的に再始動する。それから約10年の歳月がたった2021年2月、2020年8月にオープンした「道の駅なみえ」内に酒蔵を整備し、念願だった浪江町での酒造りを再開できた。決断は間違っていなかったのだ。「今の目標は、自分たちが造ったお酒で浪江町を知ってもらうこと。お酒をきっかけに、町の歴史や郷土文化にも触れてもらい、浪江町のファンを増やしたいです」と鈴木氏。そこには、今も居住できない「請戸」の地名を後世にも残したいという強い思いが込められている。390成果とポイント新規事業の開始事業内容の発信・PR2030

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