岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2021-2022 第二章、始動~ニッポンの次世代モデルを目指す
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島田 昌幸氏の想い補助金、残りは南相馬市のベンチャーキャピタルさんから出資を受けています。出資者の意見を取り入れながら、売り上げを右肩上がりに伸ばし続けるために、これまで何度も事業計画をつくり変えてきました。上場も見込んで急成長をするには、“足し算”ではなく“掛け算”の計画が必要です。ものづくりではなく仕組みづくりを重視するのも、“足し算”型の製造だけでは成長に限界があるからです。片野 当社も上場は計画していますが、急速に売り上げを伸ばすことは考えていません。世の中に無いものでイノベーションを起こすには、その価値が認知されるのに時間がかかるからです。まずは特許取得や大企業に先行した研究などで技術的な基盤をしっかりと固めて、少しずつ信頼を獲得しながら着実に成長していこうと。島田 私たちは毎年200%の成長を続けていますが、それを今後も持続できるかが目下の課題です。しかし、売り上げというのは当社の思いに共感してくれた結果なので、成長率ばかりを追ってビジョンを見失うようであれば、上場を取りやめた方がいいとも考えます。仮に10年後、世界のトップに立つような計画を立てても、政府や金融機関の人々は単年度の実績ばかりに目を向けるため、私たち事業者は結局目先の利益を追求してしまいがちです。こうしたジレンマは、日本の問題なのではないでしょうか。松浦 収益構造の在り方は問われていますよね。研究開発型ベンチャーは、研究領域のシーズから製品を開発するので、最初はプロダクトアウトからスタートするのが一般的。その後に製品東日本大震災の際、私たちの日本は世界中から支援を受けました。今後は被災という経験を生かしながら、新たな製品やシステム、文化をつくり、世界に貢献していきたいと思っています。(上)「LIFE STOCK」の製造工場は、今後教育施設としても稼働予定 (右)栄養バランスを考慮した「LIFE STOCK バランスタイプ」(アップル&キャロット味)。エネルギー補給に適した「エナジータイプ」(グレープ味・ペアー味)もありがどこで受け入れられていくかを試行錯誤し、ようやくマーケットインの事業になるのです。私たちでいうと、災害は常時発生するわけではないので、森林などの航空測量にも活用されるように事業計画を改善しました。大きなマーケットを見つけながら未来を描けなければ、調達した資金を食いつぶすだけで終わってしまう。上場であっても、その先のストーリーづくりが重要なのでしょう。片野 マーケット規模は重要な観点です。私も「最初に日本で成功し、その後に海外進出」といった構想を抱いていましたが、医療は日本ではとても小さな市場であり、新技術がなかなか受け入れられない業界でした。これではいつまでも成長できないと感じ、海外の展示会出展などを始め、日本と世界の同時並行で事業を展開するようになりました。東北は小さなマーケットですが、ものづくりの力は強い。価値の高い製品の開発とマーケティングを両立させながら事業を拡大させ、グローバルな視点で見たときにニッチトップ地方の製造業は人手不足も課題ですが、若い人材が活躍する環境づくりにおいて、どんな工夫をしていますか。片野 私たちは“ベンチャー独立歓迎”を謳っており、会社の上限は60人と決めています。そこから先は各自がベンチャーを起こし、事業がつながる場合は会社としても出資する。そうした会社がどんどん生まれれば、地域の力も底上げされ、ネットワークも広がります。1,000人の会社が1社あるよりも、10人の会社が100社あった方が地域は活性化する。そのように考えているんです。島田 当社は現在、防災から文化をつくり出すプロジェクトを進めており、その一環としてサーファーやミュージシャンなどから構成されるプロチームを立ち上げました。東日本大震災以来、沿岸部を脅威だと恐れる人が増え、子になっていれば、最終的に成功なのではないでしょうか。島田 同感です。強烈な未来を描けば、必要な技術や資金は後から集まってきます。逆にいえば、ビジョンが無ければ、資金調達や上場をしても無駄になってしまう。今の日本に求められるのは、10年以上思いを持ち続けるリーダーシップと、それに共感をしてくれる仲間づくりなのでしょう。100海外から受けた支援に対し日本の新しい文化で恩返ししたい東北からの人材流出を防ぐ人と人とのつながり

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