岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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法人化してからもたくさんのつながりができたという加藤夫妻。多くの人と関係性を築く中で意識も変わっていく。福島の米に対する風評を払拭したいと、2017年には農産物の安全性や品質の世界基準認証「GLOBALG.A.P」を取得した。検査項目は約300にも及び、毎年の検査を受けて更新しなければいけないものだ。2017年の国内の認証経営体は約480と、まだ数は限られていたという。「苦労は多いですが、福島の食に関する悪いイメージを無くすきっかけにしたい」(晃司氏)。一方の絵美氏も「B-eat JAPAN」という団体を設立し、世界へ向けて福島の食をアピールする活動を始めた。「就農当時は農家の知り合いはいませんでしたが、東日本大震災後、ほかの県や市町村の方と交流して絆を深める中で、みんなで農業者のPRをしたいと考えたんです。2018年にはホーチミンで開かれた食のPRイベントに2回参加し、お米やおにぎりを販売しましたし、2019年11月にはパリで、現地の飲食店や小売店の方々に東北の食材について知ってもらうイベントにも参加しました。活動に関わるすべての人が笑顔になることをモットーに、幅広く動いていければと思っています」(絵美氏)。農業を始めて10年。今では東京ドーム9.5個分に相当する約45haの田んぼを管理し、福島のブランド米「天のつぶ」や「コシヒカリ」、もち米などを育てている。いずれは作付面積を100ha(約100町歩)にまで広げ、地元の米作りを支えられる大規模農家にまで成長させたい考えだ。また、2019年には、南相馬市で米とホップを栽培するプロジェクトを立ち上げ、市内でのビール醸造所立ち上げを目指すなど活動の幅を広げている。「米作りをベースに、できる限りの事業を楽しくやっていきたい。『カトウファームに入れば何か楽しいことができるんじゃないか』と思ってもらえるような会社にしていきたいですね」(晃司氏)。福島の食、そして農業のイメージを明るく刷新していくため、加藤夫妻はこれからも「楽しい農業」を続けていく。1夏には青々とした水田が広がる 2苗を植える絵美氏3「天のつぶ」は粒ぞろいが良いのが特徴で、オンラインストアでも購入可能。ラベルに描かれているのはカトウファームのキャラクター「mocoちゃん」45「地域の米作りを絶やしたくない」と晃司氏、「福島の食の魅力を世界にも伝えたい」と絵美氏67自宅近くにある精米室で精米作業を行う82018年7月、ホーチミンの高島屋で福島の食のPR企画を実施92019年11月、パリとバンコクで食とお酒を楽しみながら福島の食材を知ってもらう企画を実施(写真はパリ)67「天のつぶ」福島県が15年の歳月をかけ作り上げた米の品種。品種登録は2012年。しっとりとした食感で、炊き上がりの香りも良い。天に向かい伸びる稲の力強さと天の恵みで育つ米をイメージして命名。18復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出89逆境乗り越え、チャンスつかむ「考える農業」のしなやかさ「考える農業」の思想を早い段階で体得されていたことが、風評、農業法人化の迷い、海外PR展開など、その後加藤夫妻が大きな葛藤や機会に直面したときにそれらに解を見出す力となっています。成功のポイント福島の食と農業のイメージを明るく刷新!常識にとらわれず、実験し、その結果を見てやるべきことを修正し、その積み重ねで未来を変えていく経営は、若い人たちも引き込み、福島の食や農業のイメージを明るく刷新する力になるはずです。期待するポイント監修委員によるコメントと評価額田春華氏監修委員99

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