岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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そして何よりの成功要因は、築き上げた関係だ。「あそこには教えたくないとか言い出すところが出てきたら、それで終わってしまいます。私たちはここに至るまで、協議会のときからの何年もの積み重ねがあるから協力できた。そこまでいかないと本当の意味での共同工場という域には達しません」。一朝一夕ではつくれない絆が、バーチャル共同工場を実現させた。石巻金華茶漬けのヒットが起爆剤となり、石巻うまいものが取り扱うほかの商品も注文が増加。会社としては順調だが、さて石巻うまいものマルシェをどうするか。そんな会議を開いていた石巻市水産総合振興センターで、1階のスペースが空いていることが分かった。駅から離れ、人通りがある場所ではないが、大きな駐車場があり各社の工場が近く、賃料も安いことから、2019年7月に移転した。想定通り集客には苦労しているが、各社の取引先が商談に訪れた際に店へ立ち寄りやすくなったことで、自社を含めた10社の商品が並ぶアンテナショップとしての役割がいっそう大きくなった。しかし、周辺の道路はまだ復旧の途上で、今は一般客や観光客が足を延ばしづらい場所になっている。「これはわれわれだけで何とかできる問題でもありません」と佐藤氏。石巻魚市場の見学や祭り、イベントと組み合わせた観光コースに組み込んでもらうなど、行政の協力も必要だと訴えている。「どうにかここまできましたが、まだまだ努力が必要です。携わっている10社すべてが被災前の状態まで回復したときに、本当に成功したと言えると思います」と佐藤氏。2020年1月には統一ブランド商品の第2弾「石巻金華釜めし」シリーズのお披露目を控えている。「石巻うまいもの」という旗印の下に集う10社それぞれが協力し合って商品を開発し、全国に販路を、そして可能性を広げていく。「競争」から「共争」の時代へ。石巻うまいものの挑戦は水産加工業のみならず日本の産業の針路を指し示しているのかもしれない。「競争」から「共争」へ新天地でさらなる挑戦12石巻うまいもののヒット商品「石巻金華」シリーズ3石巻うまいものマルシェが入っている石巻市水産総合振興センター4石巻うまいものマルシェがある石巻漁港を望む56店内には、10社の絆を表現した看板とパネルが掲げられている78手作り感あふれる店内には10社の商品が並ぶ、いわば石巻の食のセレクトショップ石巻魚市場津波で全壊し、新たに建て直して2015年9月に全面運用を開始。HACCPに対応した高度衛生管理型の施設で、荷さばき施設3棟を合わせた上屋根の長さは国内最大規模となる876m。復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出4786517積み重ねた絆のもと統一ブランドは輝く自社ノウハウの流出を恐れるがゆえ、協業は敷居が高い。そんな中、「すぐにまねできるものは企業秘密とは言わない」は皆に聞かせたい名言。逆境から紡がれた絆が「うまいもの」を馳走します。成功のポイント10社寄れば無敵の知恵高い視点からの挑戦を通常の企業合併では、1+1が3になることを期待しながら2にも届かないケースが多い。石巻10社の協業が15、20にもなり、視野が広がったことで相乗の価値を生み出すことになれば重畳です。期待するポイント監修委員によるコメントと評価弓削 徹氏監修委員91

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