岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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も店に立って接客に当たった。10社の商品を詰め合わせたギフトセットも用意。通常は自社の商品のみで構成されるギフトに各社のものを入れることができるのも石巻うまいものならでは。セット内容を店で自由に組み合わせることもでき、客に喜ばれた。さらにここで、石巻うまいものの名を全国にとどろかせるヒット商品「石巻金華茶漬け」が生まれる。統一ブランドとして初めて展開した、10社の得意分野やノウハウを結集した一品だ。「銀鮭」「さば」「さんま」「あなご」「たらこ」「明太子」「牡蠣」「ほや」「せせり」の全9種類をラインアップし、三陸産のワカメとノリを加えた風味豊かなかつお節のだしに、それぞれ大粒の具がパックで付属する。メディアで取り上げられると飛ぶように注文が入り、生産が追い付かないほど。山徳平塚水産株式会社の代表取締役、平塚隆一郎氏は「2食600円という値段で誰が買うのかと話していたときに、飛行機でビジネスクラスに乗るような人じゃないかという意見が出た。そして売り込んでみたら、本当にJALのビジネスクラスに採用されました」と話す。同業者らがスクラムを組んで企業を立ち上げ、統一ブランドでヒット商品を生み出し、販路を着実に広げている石巻うまいもの。ほかの港町で同様の動きがあっても不思議ではないが、石巻だからこそできたと平塚氏は分析する。「例えば気仙沼市や塩竈市、青森県八戸市はそれぞれメインとなる魚種がしっかりあるので、競合となる会社同士が多い。石巻の場合は何がメインかと聞かれてその時々で答えが違うという『主だった魚種がない』場所で、集まっている水産8社も業態が完全には被らないんです。それが成功の要因だったのかもしれません」。石巻うまいものとしての工場はないが、参加各社がハード的にもソフト的にも協力し共有し合って商品を開発、製造している現在の仕組みを平塚氏は「バーチャル共同工場」と称する。業態が異なるとはいえ、工場内を見せ、材料を教え、ノウハウを開示するというのは、互いの企業秘密をさらけ出すこと。なぜそれができたのか、平塚氏は自らの経験を踏まえてこう明かす。「被災後、ファブレスで事業が成り立たないかと、2年間かけて外部の工場に協力してもらって検証したのですが、いくら材料や製造方法を明かしても、同じ機械を使っても、同じ味にはなりませんでした。それで分かったのが、開示してすぐにまねできるようなものは、企業秘密とは言わないんだと。もっと違う、本質的なものが社内にはあって、それはまねできない。だから基本的なものは開示しても何の問題もないと思っています」。石巻ならではの条件と絆で実現した仮想共同工場1『主だった魚種がない』金華山沖漁場を控え、沿岸、沖合、遠洋漁業の拠点となっている石巻。養殖漁場としても優れ、四季を通じて多くの魚介類が水揚げされる。その数は200種類にも上るという。ファブレスメーカーが自社で工場を持たないこと。製造を外部に委託することによって初期投資、設備投資などのコストがかからず、市場の変化に対応しやすいのがメリット。宮城2390

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