岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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日本有数の水揚げ量を誇る石巻港を有する石巻市。その基幹産業の一つが水産加工業である。東日本大震災前にはおよそ200社が存在していたが、被災により約150社まで減少。人手不足や原料不足も追い打ちをかけ、厳しい状況が続いている。そんな苦境の中、いわばライバル同士だった同業者らが手を取り合って立ち上げたのが、石巻うまいもの株式会社だ。キリングループによる復興支援活動「キリン絆プロジェクト」の支援を受けて水産加工業10社に食肉処理業、農林業の2社を加えた12社が2013年9月、前身となる石巻うまいもの発信協議会を設立。販路拡大のため商談会に参加したりイベントを行ったりする一方、各社それぞれで新商品の開発に乗り出した。当初は遠慮があったと、石巻うまいもの株式会社代表取締役の佐藤芳彦氏は述懐する。「それまで取引がありませんでしたから、試作品に意見を言ったら怒られるのではと。それぞれの会社さんの味ですので、立ち入って意見することはできませんでした」。しかし毎週会議を行い、試食会を繰り返すうちに関係が深まり、率直な意見が飛び交い始める。「味が薄い」「濃い」「物足りない」、もちろん「おいしい」も。「それまでは新しい商品を作る際、その会社の人たちだけで試食をするので、どうしても同じような方向にまとまりがちですよね。それが各社の味になっているわけですが、そこに他社の目や舌が加わるわけですから、大きな出来事だったのではないでしょうか」。次第に、12社の中で原料を融通し合ったり、製造工程の一部分を他社に委ねたり、ノウハウを教え合ったりと、コラボレーションが生まれていった。本音を交わしながら生み出した各社の新商品を協議会が全国の商談や見本市に持ち込み、次第に販路も広がった。プロジェクトは一定の役割を果たしたが、せっかく築いた関係をそれで終わらせるのはもったいない。各社の商品を取りそろえたアンテナショップを作ろうと2016年1月、協議会のうち10社で株式会社を設立する。シャッター通りとなっていた石巻の立町大通り商店街の活性化の一役も担えればと同年11月、商店街に新しく建設された再開発ビル1階の複合商業施設「石巻ASATTE」に「石巻うまいものマルシェ」を出店。10社の商品を一堂に並べ、各社の従業員や社長自ら商品開発の議論を通して少しずつ育まれた関係性アンテナショップ出店そしてヒット商品の誕生「キリン絆プロジェクト」東日本大震災の復興支援にキリングループが2011年に立ち上げ、3年間で60億円を拠出し活動を進めてきた。現在も地域社会や家族の「絆を育む」ことをテーマに活動を継続している。「石巻うまいものマルシェ」石巻うまいもの10社の商品を販売するアンテナショップ。スーパーなどでは取り扱わないものを中心に、それらを組み合わせたギフト用セットも展開。客が選んで組み合わせることもできる。2030年復興への歩み[地域資源商品の売上(万円)]※10〜翌9月2013年●9月石巻うまいもの発信協議会設立商品開発と販路開拓、イベントなどの企画運営を行う復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出171,6004,00008002,4003,200[SDGs]2030年に向けて地域商社として販路を開拓し、石巻の水産加工業の復興に寄与。同業者が連携することで生産効率を高めて海洋状況の変化に対応し資源保護にも努める。豊かな海の資源を大切に使い石巻の水産加工業の復興に寄与【目指していくゴール】●7月石巻市魚町に石巻うまいものマルシェ移転2019年2,900●3月「石巻金華」シリーズ第1弾「石巻金華茶漬け」販売開始2018年2,7002017年3,8002016年●1月石巻うまいもの株式会社設立アンテナショップ開設準備、商品開発と販路開拓を行う●10月地域産業資源活用事業計画の認定●11月石巻市立町に石巻うまいものマルシェ開店130石巻うまいものマルシェ89

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