岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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と木工品・水産加工品などを手掛ける企業の2社からなるものづくり拠点のクリエイティブファームがオープンした。運営を行うこれら街区では年間100回程度の自主企画を実施するなど、各店舗から売り上げや客数の報告を受けて検証と個別施策のブラッシュアップを行っている。この大船渡駅周辺地区全体のエリアマネジメントがキャッセンの大きな役割である。キャッセンは安定的に事業資金を得るために、「市が地代を固定資産税相当額に減免し、通常地代から減額された分を、借地人である事業者がキャッセンに支払う『エリアマネジメント分担金』と事業者の『自主事業費用』に充てる」という仕組みを導入することにした。この仕組みは、拠点区域のほとんどが市有地だからできたのだが、2018年6月に施行された「地域再生エリアマネジメント負担金制度(日本版BID)」に先行して制度設計されていたという点で、先駆的、画期的だといえる。分担金の支払いは、駅周辺地区の整備が進んだ2019年度から開始された。キャッセンは、これらの収入を元に、サインや街灯などの景観の統一化と維持管理を行うとともに、キャッセン大船渡エリア全体の誘客や販売促進につながる企画を行っている。実際に各種の事業を行っていく中で、新たな課題も見つかっている。キャッセン取締役で大船渡駅周辺地区タウンマネージャーの臂徹氏は、次のように語る。「このエリアは住宅等の立地が制限されています。つまり『生活者』はいません。『生活者』のいる山側の居住エリアとはJR大船渡線で分断されていて、キャッセン大船渡エリアへの来街者は買い物を目的とする『消費者』に限られてしまっているのです。被災前、大船渡の街にあった地域の多様な活動を再構築していくために、『生活者』が集う街にしていかないといけないと考えています」。そこで、臂氏は、キャッセンが担うもう一つの役割として「生活者のための地域コミュニティづくりと仕組みづくりの継続的な実施」を掲げ、さまざまな取り組みを始めた。その結果、2017年4月から継続開催している園芸に関するワークショップが、拠点区域の美観保「消費者」ではなく「生活者」が集う街にする事業資金を確保するため大船渡独自の仕組みを導入1臂徹氏2015年8月、公募で「大船渡駅周辺地区タウンマネージャー」に選任された。景観やまちづくりを手掛ける建設コンサルタント会社に勤務し、大槌町で復興計画策定業務を担当した。「キラキラ☆冬の学園祭」地元高校生がプロデュースした学園祭で、ダンス、歌、漫才などのパフォーマンスをステージで見せるほか、ショップの出店、ゲーム大会、インスタスタジオなど、多彩な企画で盛り上げた。岩手23BID(Business Improvement District)まちづくりに充てる資金を、対象エリアの不動産所有者などから税金として徴収し、エリアマネジメント団体に再配分する手法。キャッセンは、アメリカのBIDを参考に制度設計した。82

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