岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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が進み、避難滞在者のための仮設住宅が用意されたころから、一般客の受け入れも開始。2011年4月29日に東北新幹線がゴールデンウイークに間に合う形で運転再開し、首都圏を中心に被災地応援ツアーが組まれるようになると客足が少しずつ戻ってきた。花巻温泉も旅行業免許を取得し「いわて花巻旅行社」を立ち上げると、沿岸被災地域に特化した商品を首都圏に販売し、岩手に客を呼び込んだ。花巻温泉に宿泊してくれなくてもいい、岩手の中に客が滞留してくれればいいという思いだった。未曽有の大災害であっても、置かれた状況の中、リゾートホテルとしてできることを着々と行ってきた。その姿勢は中で働く従業員にも伝わり、「社員と会社の絆が深まったと感じます」と佐々木氏。さらに「地元の人たちが花巻温泉を見る目も変わったように思います」とも。地域の人にとっても、従業員にとっても誇ることのできる地元企業となった。2011年6月に平泉が世界遺産に登録され、12月には観光振興策として高速道路が無料化。2012年4〜6月にはいわてデスティネーションキャンペーンが開催されるなど、さまざまな施策に後押しされて客数は増加していく。2014年、同じ国際興業グループである富士屋ホテル(神奈川県箱根町)から安藤昭氏が代表取締役社長として花巻温泉に赴任する。赴任して最初の1週間、甚大な津波被害を受けた陸前高田に滞在し、メディアを通してでは分からない被害の大きさ、津波の恐ろしさを改めて実感した。「従業員の気持ちや県民・市民の感情を少しでも理解できるように、周囲の話をしっかり伺いながら経営に当たっていこうという気持ちを持ちました」と安藤氏は語る。その上で、「起きてしまったことをなかったことにはできない。前を向いて進んでいこう」と2020年までの中期経営計画「GROWING 2020」を示し、従業員にこれから花巻温泉が目指すところを伝えた。元々あった「お客様本位で親切と丁寧」という経営理念、「SAFETY(安全)」「SPEEDY(迅速)」「SMILEY(笑顔)」「SINCERITY(誠実)」という4つの行動指針をより具体化するために、クレドを全従業員に配布した。新たな遊び場である「スノーパーク」新設、館内設備のリニューアル、プロジェクションマッピングなどの新システムの導入、独身アパート新設……。ホームページの沿革を眺めただけでも、安藤氏が代表地域に愛され続けるため目に見える変革を常に示す1平泉岩手県西磐井郡平泉町の中心部一帯を指す。中尊寺をはじめとする多様な寺院・庭園・遺跡などの文化財が良好な状態で保存されており、ユネスコの世界遺産に登録された。いわてデスティネーションキャンペーンJRグループ、自治体および地元観光事業者による岩手県を中心とした地域活性化施策。東日本大震災からの復興に寄与すべく、観光資源のPRや、周遊バスの提供などが行われた。クレド企業が心掛けるべき信条、価値観や行動規範、経営指針を簡潔に表現した文言のこと。企業全体としてのビジョンとは異なり、社員一人ひとりが行動する際の指針となる。岩手23478

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