岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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豊かな自然に囲まれた花巻温泉郷で1927年に創業し、北東北を代表するリゾートホテルとして発展してきた花巻温泉株式会社。現在は「ホテル千秋閣」「ホテル花巻」「ホテル紅葉館」の3つのホテルと、時の天皇をはじめ皇室御用達の温泉旅館「佳松園」を営み、国内外から多くの観光客を迎え入れる。そんなのどかな温泉郷を揺るがした東日本大震災。その時間、全館合わせて279人の利用客がいた。かつて経験したことのない揺れに恐怖を感じながらも、従業員は落ち着いて利用客の避難誘導を行い、帰宅困難者となった135人を被害の少なかった佳松園に滞在させ、情報を提供し、食料を配布した。5日後、利用客の最後の1人を秋田空港までバスで送り届け、被災時にホテルにいた全員を無事に帰し切る。「黙っていても涙が出てきました」と、陣頭指揮に当たっていた専務取締役の佐々木豊氏は振り返る。しかしそれで一件落着ではない。東北沿岸部の被災者と各種支援隊の受け入れ要請が県や市から次々と届いた。一方で、6月までに入っていた4万6,000人以上の予約はすべてキャンセルになり、従業員は自宅待機を余儀なくされた。そんな中でも「とにかく被災者の力になりたい」という一心で、採算を度外視して可能な限り支援隊の受け入れを行い、復旧の足場として重要な機能を果たす。当初は20人ほどの幹部社員が毎日総出で対応に当たっていたが、徐々に一般社員も復帰させ、7月には誰一人欠けることなく全員が復帰した。職場に戻ってきた社員たちは皆、滞在する被災者に寄り添い、一晩中付き合った社員もいたという。その一人、営業部営業企画課長の平澤健太郎氏は「何もしてあげることができず、ただ話を聞いてあげることしかできませんでした」と振り返るが、それこそが被災者の心の救いとなったことだろう。ほかにも被災地支援事業として沿岸部にバスを出し、避難所生活を送る人たちに温泉入浴と食事の無料提供を行った。避難滞在者に対してはスーパーやデパートにバスで送り迎えしたり、60を超えるボランティア団体に呼び掛けてホテルにこもりきりの人たちに娯楽を提供したりと、ケアに努めた。当時、被災者の受け入れを断る施設もあった中で、誰に頼まれたわけでもなくサービスを提供し続けたことに対して、「避難されている方々の姿を見ていると、自然と、何かしたいと思いました」と佐々木氏。それは「お客さまを喜ばせる」ことが最大の使命であるリゾートホテルの一員として体に染み込んだ、おもてなしの精神によるものだろう。地震で被害を受けた施設の復旧被災者や支援隊受け入れ復旧の重要な足場に災害時にリゾートホテルがすべきことを行い続けて被災者と各種支援隊の受け入れ延べ1万6,000人の被災避難者の受け入れに加え、警察や自衛隊をはじめ、電力関係者、建築関係者、ボランティアなど、数多くの被災地支援団体の拠点としてホテルを開放した。2030年復興への歩み[売上高(百万円)]※4〜翌3月●3月「花巻温泉旧松雲閣別館」有形文化財登録●12月敷地内にツルハドラッグ花巻温泉店新設2018年●2月敷地内に独身アパート「メゾン花巻」新設●4月敷地内に「温泉ベーカリー」新設2019年2011年●3月避難者・支援者に温泉入浴・食事を無料提供2015年●1月「スノーパーク」新設●4月「ホテル花巻」プロジェクションマッピング導入2016年●3月耐震補強工事完了●9-10月 希望郷いわて国体・希望郷いわて大会2017年●3月ホテル3館の大浴場を一部改装●11月花巻温泉株式会社創業90周年2012年●3月「いわて花巻旅行社」設立2013年●4月「ホテル紅葉館」5階フロア改修2014年●10月Tポイントカードシステム導入復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出143,0005,00002,0001,0004,000[SDGs]2030年に向けて人・物・金の経営資源を強化し、従業員の待遇改善を図りながら、観光を支える地域各社とウィンウィンの関係を保ち共に発展していく。創業100周年のさらに先へ各社と連携し、共に発展【目指していくゴール】4,3164,6214,3734,3304,5054,4104,1274,07777

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