岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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「お客さまにおいしい日本茶を知っていただきたい。そして農家の方々にはおいしいお茶作りに専念してもらいたい」と語る矢部氏。矢部園茶舗を通して日本茶の真心を伝え続け、心からおいしいと思える本物の一服との巡り合いを提供している。2017年には、オリジナルブレンドの最高級煎茶「水仙1号」や最高級深蒸し茶「茶匠の誉」、「伊だ達て茶 玄米茶」、「くきほうじ茶 夕顔 香こう福ふく」の4種類が、JR東日本の豪華寝台列車「トランスイート四季島」のお茶に採用された。最高のおいしさを引き出す入れ方のディレクションも担当し、乗客やアテンダントスタッフから高い評価を得ている。2018年11月には、全国の有名日本料理店で構成する「全国芽生会連合会」と共同開発したペットボトル入り茶「茶摘み」を発売。「日々試行錯誤をしながら手間暇惜しまずがんばっている茶農家さんの情熱と技を消費者に伝え、その仕事に見合った報酬を茶農家さんにお返ししたい」と、4年の歳月をかけて製品化した。商品名の「茶摘み」は、「未来を担う子どもたちのみならず、『茶作り』についてあまりご存じでない多くの日本人へ、おいしい日本茶は茶摘みから始まることを連想してもらいたい」との思いを込めて命名した。お茶は「立春」から数えて八十八夜目に摘む一番茶(新茶)に始まり、二番茶、三番茶とそれぞれに特徴の異なる茶葉が取れる。それを未発酵で作る「煎茶」、火入れを強く行う「ほうじ茶」、そして玄米茶など、製法により種類が変わる。じっくりと手間が掛けられている日本茶の未来を茶農家と一緒につくり上げることで、これまで日本が培ってきた精神文化を後世につないでいく一助になれるはずだと矢部氏は信じている。その日本文化を海外にも伝えようと、現在は旅行会社とタッグを組み、外国人観光客向けにお茶の飲み比べ体験を行っている。「塩竈へおいでになる外国人観光客は、そのほとんどが旅行上級者で、『ディープなジャパンをもっと知りたい』という探求心をお持ちです。そこで、日本茶を深く掘り下げて体感していただくことを提案しました」。体験では10種類ほどの日本茶を、それぞれの特徴や栽培方法などの説明を聞きながら味わってもらい、帰りに摘んだ茶葉を1本土産に持ち帰ってもらう。海外では日本茶といえば抹茶がイメージされる中、さまざまな種類の中から好みのお茶を見つけることができると、旅行会社のエージェントから大変高い評価を得ているという。鹽竈神社境内の茶店の運営も任されることになり、2020年年始にオープン。おはぎや紅白大福、五目おこわ、甘酒やつみれ汁をはじめ、矢部園茶舗の日本茶やお茶を使ったプリン「茶っぷりん」などを提供している。門前町塩竈の思い出に観光客を茶でおもてなし1「茶っぷりん」蔵王町の牧場から取り寄せる搾りたて牛乳、旧岩出山町(現大崎市)産の産みたてブランド卵、和三盆とてん菜糖、独自にブレンドした茶葉で作った完全無添加プリン。芳醇な香りが特徴。宮城2372

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