岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
68/145

葉が聞こえてきて。何が起きているんだと不思議がっていたら、その裏にアミタさんがいたんです」。バイオマスというキーワードでつながった、不思議な巡り合わせ。この奇妙な縁を及川氏は「アミタの佐藤さんと話をしてみたら、お互いに共感するところが多かった。今から思えばあの出会いは必然だった」と語る。アミタの全面協力の下、南三陸町は復興プランとして「バイオマス産業都市構想」を策定。2014年7月には「バイオガス事業実施計画書」の実施協定をアミタと取り交わし、2015年10月にバイオガス施設「南三陸BIO」が開所した。南三陸BIOには南三陸町の家庭から排出される生ゴミが搬入されるが、条例などでルール化されているわけではない。南三陸BIOに生ゴミを出すかどうかは、あくまで住民の任意。しかも、魚の骨や貝殻などは発酵処理できないので、これらを生ゴミから分別しておく必要がある。通常のゴミ出しより手間が掛かるが、それでも多くの住民が南三陸BIOに生ゴミを出してくれることについて、南三陸BIO所長の藤田和平氏はこう語る。「生ゴミを発酵処理すると液肥が残ります。この液肥は地元の農家や家庭菜園をしている住民に無料配布されて農作物の育成を手助けし、収穫されたものが自分たちの食卓に並ぶ。BIOへのゴミ出しはこの循環への参加なのです」。作られる液肥は全量が地元に還元されており、むしろ需要に追い付かず液肥が足りない状況だとか。「いのちめぐるまち」に住むならば、循環に参加したいという住民は少なくない。藤田氏が南三陸BIOに搬入される生ゴミの異物混入率を比べてみたところ、2016年は2%だったのが2019年は1%を切っていたという。「通常、こうした施設の異物混入率は10%前後が多いので、かなり低い数字といえます。しかも2016年は包丁などそもそも生ゴミではないものが混入していたこともありましたが、2019年の混入物は卵の殻など発酵させにくい生ゴミがほとんど。住民の方々の分別精度が上がっているわけです」。しかし、生ゴミの回収量は計画値に届いていない。今後は参加率と回収量を高め、100%に近づける努力をしていく。南三陸BIOの運用には、地元の事業者も協力している。生ゴミの回収や液肥散布の作業協力のほか、地元の飲食店や宿泊施設も生ゴミを提供している。南三陸町の子どもたちは、南三陸BIOへ社会科見学にやって来る。施設の機能や液肥の散布などの知識だけでなく、生ゴミ回収や液肥散布に協力してくれている地元の事業者、液肥を使っている農家の思いなど、心に関することもしっかり伝えるように努めている。2018年10月には、コミュニBIOに生ゴミを出すのはいのちめぐる環に加わること南三陸BIOの運用に地元住民が深く関わるゴミ出しから始まる循環を町ならではの文化に1FSC®「Forest Stewardship Council®(森林管理協議会)」の略で、適切に管理された森林を認証する制度。森林の破壊や劣化を招くことなく木材が活用されることを目指す。宮城2368

元のページ  ../index.html#68

このブックを見る