岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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のストーリーと共に全国に届けられ、八木澤商店の復活を示してみせた。自社の立て直しにとどまらず、次代に希望をつなぐ取り組みも気仙支部の仲間たちと続けている。現在は、発酵をテーマにした商業施設「CカモシーAMOCY」の2020年秋オープンに向けた準備が進む。昔から「発酵」になじみの深い陸前高田の地で行う、発酵の持つ持続性と多様性にかけた、「持続的なまちづくり」のためのアプローチだ。CAMOCYの向かいにはワタミ株式会社が手掛ける、バイオマスエネルギーを使った日本初のオーガニックパークが建設予定。周辺では高田松原津波復興祈念公園、北東北のスポーツ拠点となる運動公園の計画があり、中心市街地の再生も合わせて半径1㎞以内にコンパクトシティを形成するという復興区画整理事業が進む。まち全体で雇用や観光資源を生み出す取り組みが行われている。加えてソフト面ではSDGsをまちのブランディングに活用することを掲げている。海の資源を守りながら作る水産加工品、世界から貧困を無くすためのフェアトレード商品、森の資源を活用したクリーンなエネルギー事業。生み出される商品やサービス、事業の一つひとつに対して、設定するゴールがすべて関連付けされている。「そんなSDGs先進地域となれば、商品を買うだけでなく、どんなまちなのか見に行きたくなりませんか?」と河野氏。「人口が減少していくことを悲観的に考えず、外に物を売って、外から人が来るまちになればいいんです」と言い切る。まちの大部分が津波に飲み込まれ、一からの再生となった陸前高田市。だからこそ従来の考えをリセットして、まったく新しい発想でまちをつくり直すことができる。生き残ったもろみから「奇跡の醤」が生まれたように、八木澤商店をはじめとする地域の中小企業が微生物のように互いに作用し合って、陸前高田の未来を醸している。陸前高田の中小企業が作用し合って未来を醸す1人の縁が重なり復活した「奇跡の醤」。ふくよかな香りと味の奥深さが特徴2「人の輪を広げてどんどん新しい取り組みに挑戦したい」と笑顔を見せる河野氏3本社事務所で働く従業員たち。女性が元気に活躍する職場だ45矢作町にある本店には、「奇跡の醤」以外にもさまざまな商品が並ぶ。丼もののたれ「君がいないと困る」、白だし「あなたのいるわたしの暮らし」も人気商品6現在の工場。被災直後は、小さな工場の小さな釜で繰り返し仕込みを行った6CAMOCY施設名は発酵に関する「醸す」という言葉から。みそ、しょうゆ、クラフトビールなどの発酵食品の製造工場や小売店が並び、八木澤商店のみそ工場も敷地内に新設予定。11復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出45被災前から整えてきた横のつながりが奇跡を呼んだ東日本大震災前から醸成されてきた地元経営者同士の結束が発揮された例です。コミュニティがあったからこそ決断ができ、支援を得て再生できた。その限りで「奇跡」は「当然」だったと言えるでしょう。成功のポイント横のつながりを維持しつつ次世代の育成に更なる投資を地域のコミュニティを社会経済の変化や大災害に対して機敏に適応させ、維持して欲しいと思います。そして、若者に活躍の場を与えながら「勇気」と「決断力」の大切さを伝えていただきたいです。期待するポイント監修委員によるコメントと評価柳井雅也氏監修委員65

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