岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
61/145

の願いです」と切実に訴える。こうして不確定要素に左右され続けてきた津田商店が、それでも着実に事業再建を進めることができた根幹には、「誠の製品」「誠の人材」「誠の経営」という経営理念がある。「日々の業務や経営の中で判断に迷うさまざまな出来事があります。そのときに立ち返るのが『誠』。誠実にやっていれば必ず報われると信じています」と津田氏。工場で働く地元の人たちも、外国人技能実習生も、そのまじめさは折り紙付き。そんな誠実な従業員の待遇を改善し生活水準を高めていくことが、津田氏の一番の目標だ。「水産加工の現場で働く方々の待遇は一般的な中小企業の条件と比べて低過ぎます。それを他業種並みに上げていくために、ただ規模を拡大するのではなく、会社として健全性を保っていきたい。同じ売上高でも利益率や付加価値の高い商品の売上比率を上げていくことで、それを実現したいと考えています」。そのための施策の一つが、自社ブランドの缶詰商品の開発だ。同社で製造する冷凍食品の90%が学校給食向けの自社製品であるのに対し、缶詰は97%が大手食品会社向けのOEM製品。当然、利益率には大きな差がある。そこで缶詰でも自社製品を作ろうと2016年にプロジェクトを立ち上げた。取引先にとっては競合製品となるため、販路は釜石仙人峠の道の駅など市内の数店にとどめ、地元企業による地域振興、復興発信事業としての理解を求めた。折しも鵜うの住すま居い町がラグビーワールドカップの会場になったことや三陸鉄道リアス線全線開通で交流人口拡大が見込まれたことも追い風となった。釜石・大槌地域産業育成センターや県が派遣するアドバイザー、デザイナーなど外部の協力も得て2019年8月、発売にこぎ着けた。記念すべき初の自社ブランドの缶詰商品は、市場でも珍しいホヤの缶詰「ほやバル」。「誠」の旗印の下、安全・安心の製品作りを続ける津田商店の歴史に、明るい未来を切り開く新たな一歩が刻まれた。「誠」の経営で信頼高め水産加工業の待遇改善へ65「ほやバル」三陸を代表する水産物ホヤを使った手軽にバル気分を味わえる缶詰。「アヒージョ」「プレーン」「アラビアータ」の3種類を展開。各90入り。酒のお供にはもちろん、アレンジレシピも人気。104復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出871復興への道をつないだシーマー 2被災後の道のりを語ってくれた津田氏3人気商品である「さばゴマ味噌煮」4熟練の社員たちによる迅速な包丁さばき5全ロット放射性物質検査は現在も行われており、安心・安全を徹底6外国人技能実習生たちは技術の習得も早く、社員からも実の子どものようにかわいがられている7製造中の缶詰 8津田商店の再建を支えてきた経営理念打てる手をすべて打つ「誠」の経営で復活東日本大震災直後から専門家の力を借り、なんとしても再建に臨もうという姿が、周囲の協力を獲得し、さまざまな制度をフル活用して売り上げを回復できた要因。「誠」を掲げた経営理念の賜といえます。成功のポイント人材や水産資源の持続可能な確保が鍵アジアの経済成長で水産資源や人材の獲得競争が激化しています。原料調達や人材確保の上で多様性を確保するとともに、新たな市場の開拓も視野に、国際社会の動向を見据えた経営のかじ取りを期待します。期待するポイント監修委員によるコメントと評価田村太郎氏監修委員61

元のページ  ../index.html#61

このブックを見る