岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
55/145

ため、自信をつけることができました。首から下のすべての部位で安全に使える製品です」と赤津氏は自信をのぞかせる。ケーブルの将来について、手応えと確信を手に入れることができたのだ。そして2019年、ケーブルの製品開発が完了した。現在、シンテックは営業活動に力を入れる。近年に販売代理店となった企業とは、シンテックのウェブサイトを通じて関係が生まれ、赤津氏は「ウェブサイトは営業部隊を持たない企業にとって有用なツールです」と評価する。インターネットの普及する現代では、地方に立地する企業だからといって製造や販売が不利になることはないと話す。体内固定用ケーブルの販売に力を入れる一方で、シンテックは早くも次の主力製品を育てるための研究をスタートさせている。東京の民間企業とは5年後の、東北大学とは10年後の実用化を目標に新製品の研究を始めた。中国や台湾などへの進出も本格化させているという。「こうした取り組みが可能なのも、大学や薬事コンサルタントなどとの横のつながりがあるからです」とした上で、ネットワークづくりの成否は経営者の意思次第だと語る。粘り強く事業を進めるシンテックにとって、永遠の課題は人材の育成だ。「若い人を確保するのも、育てるのも本当に大変です」と苦労を語る赤津氏は、働きやすい職場環境づくりを進めるとともに、都市部への若年層流出を憂い、自身の出身校を含めた近隣の高校に「地元の若い人を採用したい」との働き掛けも熱心に続けている。その一方で多様な人材の採用も行い、地元のメーカーを定年退職した技術者の採用にも積極的だ。「優秀な技術者の経験や知識は、定年を迎えても古びません」。東日本大震災は大きなピンチに違いなかったが、「ピンチはチャンス」と考えたからこそ大型補助金の応募にも挑戦できたという。「ベンチャー企業はがむしゃらに前に進むことが必要です」と語りつつ、将来を見据えた製品開発、そして人材確保に注力を続ける。「がむしゃらに前へ」進みつつ、将来も見据える122019年に製品化が完了した体内固定用ケーブル。折れた骨などを固定するために使われる3ケーブルを体内で操るための専用器具も開発した。先端のフックをケーブルに引っ掛けて操作する45マイクロスコープなどの機器を用いてケーブルを1本ずつ詳細に検査するなど、徹底した品質管理を行っている6「いわき市から国内外の医療に貢献したい」と語る赤津氏7ドイツの展示会で使用した、英語の製品説明図82014年には中小企業庁の「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選ばれた4587609復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出技術と人的ネットワーク両立させた稀有な事例医療機器は、技術だけでは販路獲得できないのが現実。赤津社長が、技術者でありながら産学官や展示会、コンサルタントをうまく活用し、幅広いネットワーク作りに奔走したことは特筆に値します。成功のポイント技術と人の複合で次なる新機軸へ特殊金属を使用したワイヤーなどは医療分野への適性も高い。ワイヤー技術を手術時に骨を切断する“糸ノコ”へ転用した企業もある。重要度を増す医療市場にインパクトを与える新製品を待ちます。期待するポイント監修委員によるコメントと評価弓削 徹氏監修委員55

元のページ  ../index.html#55

このブックを見る