岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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シンテック周辺は比較的早くに電気や水道が復旧し、スタッフも全員無事だったことから、2カ月後には事業の再開にこぎつけた。とはいえ、「体内固定用ケーブルの開発を続けるべきか分からず、これからどうしようというのが正直なところでした」と、将来を展望できずにいた。そんな赤津氏の元に、2011年7月、福島県からある打診があった。経済産業省が公募していた「課題解決型医療機器開発補助事業」に応募しないかというのだ。「それまでに参加したものとは補助金の額や事業規模が違ったので、私たちでいいのかなと当初は思いました」と赤津氏は明かすが、体内固定用ケーブルを世に出すためには活用すべきだと考え直し、福島県立医科大学などと連携して応募。8月には赤津氏自身がプレゼンテーションを行い、見事に採択に至った。「開発したケーブルのサンプルを持ち込んで、『ここまで製品化が進んでいるので何とか事業化にこぎ着けたい、日本の医療に貢献したい』と訴えたのが、良かったのかもしれませんね」。約180件の応募から採用されたのは、わずか12件。赤津氏の思いとシンテックの高い技術が、審査員に伝わったのだ。補助事業での採択が決まり、体内固定用ケーブルの開発を加速させると同時に、シンテックは医療機器の製造・販売に関する厚生労働省の許認可や、医療器具の製造に必要なISO13485の認証の取得を進めた。「許認可の条件に沿った詳細な製造データを整理して提出しなければならず、本当に苦労の連続でしたが、福島県の薬務課や薬事コンサルタントにも相談して、いろいろ助けていただきました」。また、研究開発や製造、販売、知財管理などに関して、福島県立医科大学や東北大学、東邦大学、福島県、特許事務所や薬事コンサルタントなどとの連携が欠かせず、赤津氏は産学官の幅広いネットワークづくりに取り組むようになった。さらに医療機関からは「ケーブルを使うための専用器具の開発も必要」とのアドバイスを受け、その製造にも取り掛かることになる。赤津氏は忙しい日々の合間に国内外の展示会にも積極的に参加し、医療関係者との関係づくりにも努めた。2016年と2017年にはドイツのデュッセルドルフで行われた展示会にも出展。ドイツの大学の医学研究者にも知遇を得る。「彼らも私たちの製品を評価してくれた製品開発の転換点になった大型補助事業への採用国内外の産学官の連携で幅広いネットワークを構築課題解決型医療機器開発補助事業医療機器産業における中小企業の優れたものづくり技術を支援すべく、経済産業省が2010年度から始めた助成事業。2014年度からは「医工連携事業化推進事業」と名称変更している。ISO13485医療機器の品質保証のための国際標準規格。医療機器を輸入する際は、同規格の認証を必須とする国も多い。厚生労働省はその一部を修正し、医療機器の製造、開発などの基準としている。福島23154

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